DANCE！2nd

58ビート ページ11

58.



峻也が泣いている。



私は泣かない。泣けない。



どうしてかは分からないけど、何故か涙は出なかった。みんなの創りあげる物語に圧倒されて、私はただ舞台袖に突っ立っていた。



1部が終わって2部のライブが始まった時も、私はそこにいた。



思考すら止まり、目の前に溢れるビートを拾うのに精一杯。



そうしていると、今までの思い出がぽろぽろと零れ出てきて。



『mistake』、大地くん涼と間奏の振りを特訓した。



『描いていた未来へ』はつばさくんとフォーメーションで大モメ。



『えおえおあ』では峻也とダンスのレクチャーの仕方で沢山話し合った。



『Endless Night』、これはバックダンサーを入れるかどうかで麻璃央くんに死ぬほど歌わせちゃったんだ。



それから、



『解けない魔法』



流司の音をダンスで表現したくて、試行錯誤を繰り返した。アンサンブルさん個々の動きにもこだわった。



舞台袖から、歌う流司を見つめる。



佐藤｢溢れ出る涙の中 どうしても伝えなくちゃ｣



流司のビートが広がって、包み込んで。



清光、涙なんて出ないよ。私の分までステージの上に持っていっちゃったのかな。



私やっぱり、舞台の上に立つ流司が好きだ。役に憑依されるんじゃなくて、その役を飲み込んででも表面に現れるその『音』が。



みんなが出てきて、love storyも終わり、いよいよ最後の曲。



しげ美さんや健太郎さん、人間チームの和太鼓は稽古場で聞く度に踊りだしたくなった。『漢道』という曲名だけに、ダンスは男の色気にこだわった。



あぁ、もうすぐで終わってしまう。



私たちが創り上げてきたものが、ようやく完成する。



終わりたくない？



終わりたい？



どうだろう。



私は、まだここにいたい。



ずっとここで、みんなの音に浸って、圧倒されていたい。



麻璃央くん、つばさくん、涼、峻也、大地くん、咲子、汐音、茅野さん、



流司。



大好きな人たちと、このカンパニーで。



だから、お願い。



もう少しだけ、歌っていて。





私の涙が出るまでは。

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