5話 ページ6
和臣の言葉に立花さんは困惑の表情を浮かべ黙っていると、和臣はいらだたしそうな光を目にうかべた。
「おまえ、新入りだろう。前からいるオレたちに、ちゃんとあいさつしろよ」
立花さんはムッとした様子でこちらに向きなおった。
「はじめまして、立花彩です」
「これから、よろしくお願いします。数の上杉クン、シャリの小塚クン、女ったらしの黒木クン、気分屋の上宮サン、それに人間とポストのちがいもわからない、いばり屋の若武クン」
このあいさつに、それぞれ反応が分かれた。
和典と和彦はプッと吹き出し、貴和は目をキラリと光らせ、和臣はムッとして立花さんを睨み、私は立花さんの性格を分析していた。
この子、きっと普段は穏やかなんだろうけど、怒ると面倒だし、正義感が強い子なんだろう。
ああ、少し苦手なタイプだ。嫌いにはならないけれど、関わるのは最低限にしよう。そう思った。
「おい、立花」
和臣は立花さんのほうに一歩踏みだそうとし、それを貴和が肩をつかんで止めた。
「やめなよ、若武。おまえの負けだ」
「なかなかしゃれたあいさつだったよ、立花彩。さすが国語のエキスパートだ」
立花さんは少しまごついていた。きっと「エキスパート」の意味がわかっていないのだろう。真面目そうだし、そういう言葉や私たちがよく使う悪知恵もわからないだろうな。
「君の能力を認めるよ。なかよくしようぜ。ただし」
貴和はそう言い、からかうように笑いながらこう続けた。
「オレなら、若武のことは、いばり屋っていうより目立ちたがり屋って言うけどな。こいつったら、いつもハデに決めたがって、それで失敗するんだぜ」
その言葉に続き、和典や和彦が更に言葉を重ねていく。私はこの三人と同意見なので、特に何も言わない。
三人の言葉を聞き、立花さんががまんできずに笑い出すと、和臣は今にもはちきれんばかりにムクれあがった。あーあ。
貴和の手をはらいのけると、いまいましそうに私以外をにらみまわし、最後に立花さんをギラッと射すくめた。
「ああ、オレは、いばり屋で目立ちたがり屋で、気取り屋で、そそのかし屋だよ。悪かったな」
ふてくされて言って和臣は、いすの背にかけてあったブルゾンをつかむと、キュッと靴底をならして身をひるがえした。
「おい、若……」
言いかけた和彦の声をドアの音が消し、続いて階段をかけおりる荒々しい足音がひびいた。
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作者名:ゆきしま | 作成日時:2021年3月25日 17時