20話 ページ21
貴和たちが戻ってき、ドアを開けた瞬間、まっ先に和臣が声をかけた。
「どうだった?」
「ダメ」
貴和が、まいったといったように首を横にふると、和臣はくやしそうに鼻にシワをよせた。
「ちっきしょう」
「ボクたちもさ、てんでダメ」
あーあ、進展なしか。がっかりだなぁ。
「早退者は、なし。欠席した先輩はいたんだけどさ、脚折って入院したばかりだって。先生にも聞いてみたんだけれど、秀明の先生が違反者の自転車を取りあげたって話は耳に入ってないって。もちろん、そういう発表もない」
みんながいっせいにため息をついた。
「となると、いよいよ単なる乗り逃げってことになって、捜査は暗礁に乗りあげるな」
和臣がいまいましそうに言った。
「乗り逃げじゃ、通り魔と同じだ。犯人が特定できない。いるかどうかもわからない目撃者を見つけること以外に、手の打ちようもないってわけだ」
投げだすような声その声に、和典が慎重な声を重ねた。
「まてよ。乗り逃げってことは、通りかかってフラッとその気になったってことだろ。だけど、その程度でチェーンまで引きちぎるかな。通りすがりにフラッとその気になる程度のヤツは、ちょっと引っぱってみてダメなら、それであきらめちまうような気がするけどな」
確かに、と私は同意して続けた。
「フラッとなったやつがわざわざあんなカタチでチェーン引っちぎって乗る必要ないもんね。そんな切る準備してるはずないし」
立花さんもうなずいた。
「それに、あれは絶対、人間の力じゃ切れないチェーンだって、兄が言ってた」
私たちは、一瞬立花さんのほうを見、それからそろってうなずき合った。
「立花祐樹の言うことなら、信じる気になるよな」
「ん!」
立花さんはとても不服そうだった。
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作者名:ゆきしま | 作成日時:2021年3月25日 17時