【銀魂】かっこよく生きる為の方法

往生際 ページ23

坂田さんの掌が、私の手首を握る。痛いほどに伝わってくる体温が伝染して、私はバクバクと波打つ心臓の音を聞いていた。

彼は、普段は生気のない目を、鋭く光らせて、
私をまっすぐに見つめていた。ーーなんだよ、そんな顔もできるんじゃん。表情筋生きてんじゃん。

まあ、そんな軽口を叩ける余裕なんて
私には一欠片もないのだけれど。





「俺ァ、会ったばっかの頃のお前より、今のお前の方が、よっぽど良いと思うがな」



何それ、と嘲笑が浮かんだ。
坂田さんが、気休めやお世辞を言うような人じゃ
ないことはわかってたけど、ーーそれでも、信じられる言葉じゃなかった。




「・・苦しいし、辛いし、私、前みたいに冷静じゃ
なくなった。全部かわしてそこそこに生きてきたのに、今は全部ダメなの。うまくいかない。

・・坂田さんに惚れるとか、計算外だし。
この感情をうまく消せないってのも計算外」



小さなため息が降ってきた。
呆れられた。私のあまりにも情けない姿に。






「・・なんで消す必要があるわけ」

「え！？いや・・だ、だって、どうにもならないし
苦しいなら捨ててしまったほうがマシ」



再びため息。突然、ガシガシと頭をかいた坂田さんは眉を顰めて私を見据えた。強い眼光が注がれる。
どきりとしてしまう私は、往生際が悪い。

数秒の沈黙を破ったのは、絞り出すような声だった









「ーーーもし、俺もお前に惚れてるっつっても
消す必要、あんのかよ」








世界の何もかもが、停止したような感覚に陥った。




(・・・彼は今なんと言ったのだろうか)




惚れてる、と聞こえた気がした。でもそれは、
追い詰められた私の妄想である可能性もある。

ーーーーただ、注がれる強い眼光が、現実だと、
証明してくれている。それは、ひどく眩しくて、
ひどく悲しくて。泣いてしまいそうになった。






「・・馬鹿だね。それでも消すよ、私は」


笑った私に、坂田さんは釣られなかった。
いまだするどく射抜く眼光に、吸い込まれそうだ。

「なんでだよ」と。落ち着いた声が降ってきた。





「言ったじゃん。しんどくて辛いのは嫌なの。
本気で恋愛するなんて、自ら苦しもうとしてるのと
同じでしょ？

・・坂田さんの言ってることは正しいよ。
でも私はやっぱり、うまく生きていきたいの。
今更かっこ悪い生き方を選ぶなんて、そんなの、
実家を飛び出してきた意味がないじゃない」


私は、苦しむことから逃げた。
自ら戻るなんてできない

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