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『 いっ、いぶ、伊吹さんっ、止まって！！！』
「 バカバカバカバカバカ！！」
本日何度目かもわからないブレーキ音が聞こえた後、気が付けば煽り運転をしていた車両と向かい合わせに止まっていて。
伊吹が勢いよく車を飛び出ていくのが目に映った。
「 危ないだろうっ！」
そんな俺ら2人には目もくれず一目散に煽り運転をしていた車へ近付く伊吹。
それを横目に、俺は車から出て橘の乗っている後部座席の扉へと手をかけた。
驚きすぎて声の出ない橘に、できるだけ声色を柔らかくし話しかける。
「 大丈夫か？」
『 な、なんとか……。』
煽り運転をしていた奴と伊吹の怒声を聞きながら、震える橘に手を差し出す。
『 私死んでません……？』と聞かれたので、握った手を見せて「 生きてる。」と意味を込め頷いた。
『 私、道に倒れたおばあちゃん見に行ってきます。』
「 わかった。」
数十分後、路上での喧嘩という110番通報が相次ぎ警察が集まってきたところで事情を説明。
それからさっき見つけた緑のキーホルダーのついたドライブレコーダーをチラつかせながら煽り運転をしてきた男と話せばすぐ理解したようで。
逃げるかのように走っていった車を見届け、伊吹へ近付いた。
「 伊吹さん、相手を刺激して揉め事を起こさないでもらえますか？」
「 アイツほっといたら危ないでしょ。」
「 それを上回る危ないことをするな。」
「 上には上がいるって見せていくスタンス〜。」
苛立ちに苛立ちが加わり、ピキッときそうになった時。
橘が、何やら赤色の袋を持って走り寄ってきた。
『 これ、さっきおばあちゃんがいたところに落ちてて……。』
喧嘩はやめろと言うふうに俺と伊吹の間に多少強引に割って入る橘に内心感謝しながら、赤色の袋を受け取った。
「 おい、これ後で墨田署に届けろ。」
「 うん？ なにこれ、なんで俺が……。」
「 おばあちゃんの落とし物、あんたが道を譲っていれば転ぶこともなく、誰かにあげるはずだった大事なおもちゃも落とさなかった。」
中身を見て、グイッと伊吹に袋を押しつける。
暫くの沈黙の後、伊吹は笑った。
「 OK、じゃあちゃんと届けるよ。」
それだけ言い残すように言えば、車へ踵を返した伊吹。
……掴めないやつ。
俺は表情を変えぬままそう思った。
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作者名：ふぃのぁ | 作成日時：2024年2月2日 14時
