信じている。 ページ31
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「杏寿郎、くれぐれも無理はしないでね」
「うむ!よもや己にかつてほどの力があるとは思っていない。生きて帰る為にちゃんと見極める」
「…ならよし。いってらっしゃい」
「いってくる!!」
一つ口付けを落として、
杏寿郎は、Aに贈られた羽織を翻した。
その後ろ姿を見届けながら、
Aはぎゅっと手を握った。
杏寿郎が任務に復帰してから、しばらく経つ。
片眼は視界を奪われ、
傷ついた内臓も完全には戻らない。
それでも、
かつての炎柱としての責務を、
鬼を滅殺するという強い目的を、
完全に諦めてしまう事は出来なかったのだ。
その気持ちが痛いほど分かるからこそ、
Aは止める事をしなかった。
だがこうして見送る度、
苦しいほどに、胸が軋む。
杏寿郎を信じていないわけではない。
炎柱を退いた今も、
継子である炭治郎への指導含め、
その実力は確かなものだ。
だがAは、知ってしまった。
失うかもしれないという恐怖を。
杏寿郎の居なくなった世界を、
初めて想像した。
怖かったのだ。
「…妻として失格ね」
ただ信じて待つことが出来ないなんて。
小さく息を吐いて、
炎柱としての羽織を掴む。
Aの鎹鴉、楓が肩にとまる。
スリ、と顔を寄せてきた楓に、頰を緩めた。
「…もちろん、杏寿郎の事は信じてる。…でもね、一回失う恐怖を味わっちゃって…弱気になってるのかも」
これでは、杏寿郎のことを言えない。
信じて待てと、Aはこれまで
何度も杏寿郎に伝えてきたのに。
「……大丈夫よ楓。あの人が必ず帰るって約束してくれる限り、私もちゃんと信じて待つよ」
だから、
こんな弱音を吐くのは、最後にする。
帰ってきたら、
ただ笑って、おかえりを言って抱きしめよう。
「…さぁ、私達も行きましょうか」
バサッと翼を広げた楓に
刀を握ったAは、
その後を追った。
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香澄 - とっても面白いです!!今日の朝は電車で笑いを堪えながら見ていました笑。更新頑張ってくださいね! (2月19日 21時) (レス) @page8 id: 130dd00968 (このIDを非表示/違反報告)
ユリア(プロフ) - RUNAさん» コメントありがとうございます、分かりにくくてすみません、わざと火の表記にしています。日の呼吸について詳しく明かされていない状態での会話になるので…… (7月22日 14時) (レス) @page22 id: bb66615edf (このIDを非表示/違反報告)
RUNA(プロフ) - 失礼かとも思うんですが、火の呼吸じゃなく日の呼吸ですよ! (6月19日 22時) (レス) @page22 id: 391b329446 (このIDを非表示/違反報告)
夕 - 何度も続けてのコメントですみません。 物語読んでいて気が付いたのですが。。。 番外編.有能妻の日常のここの部分 待っていろ!と掛けて行った。 これ正しくは駆けて行ったではないんでしょうか? (2021年11月2日 1時) (レス) @page34 id: 4332e38eb8 (このIDを非表示/違反報告)
夕 - またまた続けてのコメントですみません。。。 物語一気に読んじゃいました。 この物語では煉獄さん生き延びることが出来て良かった です。。。 その後のお二人のことが気になります。 (2021年11月2日 1時) (レス) @page33 id: 4332e38eb8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ユリア | 作成日時:2021年2月13日 23時