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よもやこれはどういう状況なのだ。
…ん?以前にも同じ事を思った気が…
「おかえり!杏寿郎!」
「おかえりなさい、兄上!」
「今日はさつま芋のお味噌汁作ったよー」
目の前で弟、千寿郎と夕飯の準備をしているのは、
愛しいAだ。
夕方に送ったメッセージの返事はなく、落ち込む気持ちをそのままに帰宅してからのこれだ。
抱きしめたい。
今すぐに。
動けずにいる杏寿郎の側まで歩み寄ると、Aはそっと手を伸ばした。
「…抱きしめても、いい?」
「駄目な訳がないだろう!むしろ頼む!!」
「ぇ、きゃっ…!」
がばっと覆い被さった杏寿郎に、何とかしがみつく。
会いたかった、そう耳元で聞こえたそれに、A
は嬉しそうに目を細めた。
杏寿郎の匂いに包まれて、心地が良い。
ぎゅ、と強く抱きしめ返すと、杏寿郎の肩がびくりと揺れた。
「…何かあったか?」
「……ううん、好きが溢れてるだけ」
「よ…もや、今日は素直だな!そんなAも愛いが、正直色々と抑えるのが大変だ!!」
赤くなる顔を隠すように、天を仰ぐ。
くすくすと笑う声に、杏寿郎は抱きしめる腕に力を込めた。
「義姉上、もう後は並べるだけですから大丈夫ですよ!」
「あ…ごめんね、千寿郎くん!手伝うよ!」
「いいえ、…兄上と少しでも一緒に居てください」
そう微笑んだ千寿郎に、Aはぐっと心臓を掴まれた。可愛い。いい子。天使。
ありがとう、と素直にお礼を言って、杏寿郎の手を握った。
「っ!?」
「…少し、話したい。いい?」
「う、うむ!」
見上げたAに、思わずたじろぐ。
落ち着け…!心頭滅却、俺は歴史教師の煉獄杏寿郎だ…!!
Aの手を引いて、己の部屋へと向かう。
向かい合わせに座り、少しの沈黙が流れる。
「…私ね、前世の記憶を少しずつ思い出すようになってから、…それが夢なのか、現実なのか、…分からなくなって」
「…!」
「今この世界に、鬼はいるのか。…この世界が夢なのか。……私以外、そんな話を信じる人もいなくて。…誰にも、聞けない。分からない。…だからもしもの時の為に、私だけは戦えるようにしておかなきゃって」
ぎゅ、っと拳を握った。
微かに震える肩に、杏寿郎は伸ばしかける手を必死に堪える。
これは、最後まで、聞かなきゃいけない。
「それが私が、ずっと鍛錬してきた本当の理由。…でも皆と再会できて、それが前世の記憶で、…今は違うんだって、分かった」
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ユリア(プロフ) - さやさん» こんばんは!こちらにも来て下さりありがとうございますっ(*´ω`*) そんなふうに言ってもらえて嬉しい限りです…(*^^*) (2021年4月11日 3時) (レス) id: 20317e0f29 (このIDを非表示/違反報告)
さや(プロフ) - 大好きなシリーズの続編が読めて幸せです!!そして、ユリア様の文も好きなのですが※のあとのユリア様の一言コメントが可愛らしくて堪らなく好きです(^o^) (2021年4月11日 2時) (レス) id: d03059f13e (このIDを非表示/違反報告)
ユリア(プロフ) - manappleさん» そんな…嬉しいです!(;_;) 今回は甘えん坊兄上をお届けしました!笑 週末暴走兄上!わっしょーい! (2021年1月18日 23時) (レス) id: 20317e0f29 (このIDを非表示/違反報告)
manapple(プロフ) - 続編嬉しい!終わらないの嬉しい!!もはやユリアさんの煉獄さんなしには生きていけないです(´∀`)日々きゅんをありがとうございます!週末最高!わっしょーい! (2021年1月18日 22時) (レス) id: 6c2aa07252 (このIDを非表示/違反報告)
ユリア(プロフ) - 鈴猫さん» ムフフ( ´∀`) 気に入ってもらえてよかったです( ´∀`) ギュンギュンしちゃいましたか…(゚∀゚) 駄々っ子兄上でした笑 (2021年1月18日 20時) (レス) id: 20317e0f29 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ユリア | 作成日時:2020年12月30日 16時