姫金魚草 (ページ29)

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Aside

あたたかい温もりに包まれ、驚いて閉じていた目を開くと目の前にある彼の服に抱きしめられていることに気づく。

『ごめん、今だけこうさせて。』

今までに聞いたことの無いような、か細い壱馬の声に何も言い返せなくなる。

どうして抱きしめられてるのかも分からないまま、ドキドキと鳴る心臓。

幼馴染だもん、ハグくらいするよね、うん、と無理矢理自分に言い聞かせる。

どれくらいそうしていただろうか、
ゆっくりと身体を離した壱馬の顔を見上げると、
じっとこちらを見つめる壱馬と目が合う。

『ごめんな、ありがとう。』

合わせていた目を伏せてそう言った壱馬の表情は、何も聞くなと言っているようで、私は何も聞けなかった。

「う、うん。全然。」

『なあ、』

「ん？」

『慎と…仲良くやっとる？』

「うん。仲良くしてもらってるよ。」

『そっか…じゃあよかった』

“ごめんなこんな時間に”

そう言って部屋を出ていく彼の背中を見て

なんだかもう2度と会えないような気がしてしまった

そんなことあるはずないのに、その日はなんだか眠れなかった。

彼の温もりと、切ない声を思い出してしまったから。

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