姫金魚草 (ページ12)

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Aside

『悪いって…。今更俺にそんな遠慮せんでもええやん。』

壱馬はそう言って微笑んだ。

やっぱ優しいな壱馬は。昔も今も。
歌もどんどん上手くなって、どんどんかっこよくなってもそうゆう優しい所は変わらない。

私があなたを好きなこと。
外で会わないようにしてることはもちろん壱馬には言ってないし言うつもりもない。

だから今みたいに幼なじみの立ち位置からの言葉をかけられると、どう断ったらいいもんかと悩んでしまう。

「あ、いや。友達来てくれることになってるからさ。」

あははと笑ってそれっぽい事を言ってみるも、壱馬は怪しい顔でこちらを見ている。

『ったく。』

「え……？」

『ほら。帰るぞ。』

こちらへ一歩踏み出す壱馬に手をぐいっと引っ張られ、あっという間に傘へと引き込まれる。
すぐ目の前にある壱馬の顔に高鳴る鼓動。

「いやでも、友達がっ……！」

『嘘なんやろそれ。Aいっつも嘘つく時、髪の毛触るやん。』

「…っ！」

しまった、と思った。無意識って怖い。

図星やな、と言ってまた笑った彼にはやっぱり敵わない。

結局断りきれなかった私は、彼の傘に入れてもらい2人並んで歩き出す。
人目を隠すようにさされた傘の中で、ドクドクと高鳴る鼓動を悟られないようにすることで私は必死だった。

『A、どんどん傘から出て行ってんで。』

「わっ！」

グイっと肩を引き寄せられ、傘の中に再び戻される。
すぐそこある壱馬の横顔に突如赤くなる顔を見られまいと必死に下を向く私。

『なに、照れとるん？』

「っな！！そんなことないし！」

『ふはっ、冗談やって。幼馴染に照れたりせえへんよな今更。』

“幼馴染”というフレーズに一気に高鳴っていた心臓が治っていく。

「あ、もう近くだからここでいいよ。ありがとう」

家まであと数100メートルというところまで来た頃、もう雨も止んできたことを理由にして壱馬に別れを告げる。

本当は、壱馬とこれ以上一緒にいるのが耐えられそうに無いからなんだけど。

『そうか？じゃあ気をつけて帰れよ。』

そう。いつだって壱馬は優しい。

もう一度壱馬にお礼を告げて家へと歩き出す。

そんな私の後ろ姿を壱馬が見ていたとは知らずに。

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