ファインダー越しの【tatsuya.f】 (ページ35)

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その日は大雨だった。

雨で濡れた体を玄関で拭いていると大きめのバスタオルを辰哉が渡してくれた

『ありがとう。部屋、暖房入れてないの？寒いでしょ？』

返答がない辰哉の顔を覗き込むと涙の跡がくっきりとついていた

『どうしたの？』

「疲れた」

え？と私が驚いてどうしたの？と聞こうとした瞬間だった

「別れよっか」

別に予想してなかった訳じゃない。

なんとなく、こんな日が来るとは思っていた。
でも、それはあまりにも突然だった

「なんか、もう、疲れた」

うん。と私が頷くと辰哉は私のことを抱き締めごめんねと何度も謝った。私の肩が濡れているのを感じた。

『辰哉の事大好きだよ』

なんとなく分かっていた。

プレッシャーに弱いところ

考えすぎてしまうところ

何よりも私のことを考えてくれてるところ

「Aちゃんは優しいから…ほんとごめん」

辰哉がボロボロと涙を零すから私もつられて泣いた

28年間生きてきて初めてだった。こんなに泣くのは

『辰哉。いっぱい色んなもの抱えさせてごめん』

私はそれだけ言い辰哉の頭を撫で荷物を詰めた。

キャリーバック1つ。いつだってこれだけで収まる私の人生だ。
鍵を机に置き、じゃあねと声を掛けた

「好き」

『……大好き』

辰哉は私の大好きな、その細い指で私の涙を拭ってくれた

もう一度ありがとう。好きだよと伝えて最後に触れるだけのキスをして2年半一緒に暮らした家を後にした。