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#012_16(前野side) ページ6

前野「じゃあ、そうだな……。これ、お願いできる?」

そう言って渡したのは着替えの入っている紙袋。

A「おひとりで大丈夫ですか?」

紙袋を受け取りながら心配げに問う彼女に「大丈夫だよ」と伝えれば、俺たちの邪魔にならないよう下がったところで、俺たちを見守るようにして見つめていた。
どうにかして二人でタクシーを降り、ため息にも似た息を吐きながらマンションを見上げる。
五階建てのマンションは最近建てられたばかりなのか外観はとてもきれいで、もうすぐ二十四時になろうとしているのに、数部屋のカーテンの隙間からは明かりが漏れていた。

A「この奥にエレベーターがありますので」

彼女は反対側でたつの腕を肩に回しながら言う。

前野「ありがとう」
A「ちゃんとお役に立てているのか分からないですけど……」

困ったように笑う彼女と、マンションのほぼ真ん中に位置するエントランスを歩く。
エレベーターはエントランスを抜けた突き当りにあり、彼女がエレベーターのボタンを押すと、しばらく利用者がいなかったのか起動音のあとワンテンポ遅れて停止階の数字が点灯した。
静かなマンション内には低いエレベーター音がよく響いていて、マンション内は明るいはずなのに、なぜか少し不気味に感じた。

前野「こんな時間にごめんね」
A「いえ!さすがに鈴木さんを抱えて階段は上れませんから」

すぐに来たエレベーターに三人で乗り込み、彼女は二階のボタンを押した。
目的の階へはすぐに着き、「お先にどうぞ」と彼女は扉が閉まらないようボタンを押し続けてくれている。

前野「ありがとう」
A「いえいえ」

言葉に甘え先にエレベーターを降りると、左右に広がる廊下が視界に入る。
二人並んで通るのは余裕そうだけど、三人だと厳しそうな廊下幅に「先に部屋へ行っててくれるかな?」と後ろにいる彼女に声を掛ければ、その言葉で察したのか「そうですね……。じゃあ、ゆっくり来てください。部屋は左手側の一番奥になります」と告げて、彼女は小走りに自分の部屋へと向かった。
その後ろ姿を目で追いながら、「もう少しで着くよ」とたつに言えば、返事なのかそうでないのかよく分からない言葉が返ってくる。

そんなに長くもない廊下を時間を掛けながら歩き、ようやく彼女の部屋の前へと辿り着けば、タイミングよく開けられる玄関ドア。

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作者名:シュリ | 作成日時:2018年3月31日 3時

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