ＭＩＮＤ 【白石蔵ノ介】

１５_VISIT ページ17

『………い、おい』

「ん……っ」


頭の中の、遠く遠くから誰かの声がする。
口調は少し乱暴だけど、聞いていて安心感を持たせるような声――…

目を開けたくても開けられない、
だるさに負けてしまう身体がじれったい


「おい！早よ起きろや！！」


ｶﾞﾝ、という鈍い音とともに目の前に軽く火花が散った。
どこかから聞こえると思った声は、皮肉なことに白石くんのものだったらしい。

コイツ、あろうことか病人を躊躇なく殴りやがった


「った……」

「俺がきてやってんのに、何のうのうと寝とんねん。学校も休みよって…お前仮にも彼女ちゃうんか。彼女なら彼女らしく、大人しゅう風邪ひいても肺炎になっても俺に全力捧げとればええねん」

「…モテなくなるよ」

「は、残念。これでもモテすぎて困っとるんですー」

「うっざ、」

「つかアレやな」

「あ？」

「『馬鹿は風邪ひかない』って嘘やったんやな」

「………っ」

「どうでもええけど」


お前なにしに来たんだよ、
罵倒浴びせるだけにいちいち来たのなら、早く帰ってほしい。
ただでさえ頭痛とか酷いのに、白石くんといたら悪化する一方だ


「ねぇ、冷やかすだけなら帰ってよ」

「は？」

「こんなんだけど、実際本当に不調なの。熱だって38℃超えてるし、頭痛とかもひどいんだよ……本当に、そんなこと言うために来たんなら帰って」

「……」

「元気になったらちゃんとするから、早く帰って」

「……ん、」


不意に、白石くんがベッドに上半身を起こして座る私の膝に何かを落としてきた。
落とされたビニールを見ると『にこにこ４１０マート☺』というロゴが伺える


「やる。お前の事やからどうせ何もしてへんねやろ？４１０マート行って、風邪薬とか冷えピタ、ゼリー、お粥、果物……栄養つきそうなもん適当に買ってきた」

「え、」

「で、食べもんは食ったん？薬は？食欲は？今の体温は？」

「ちょ…」

「そない体調悪いんやったら、話してへんで早よ横になり」

「えええええぇぇ………」


白石くんに軽く肩を押されて、ベッドに横にされる。
そのままテキパキと体温計や冷えピタを取り出して、私の方に投げてきた

いつにない真剣な表情に、返す言葉もなくなる


「薬……は何か食った後の方がええか。食欲はあるん？」

「……ない」

「でも食え。俺が作ってきたるから」


せやからキッチン適当に借りるで、
そう呟いて腰を上げた白石くんは、自室を出て階段を降りて行ってしまった

１６_MEDICINE→←１４_SICK

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す