9『その名前を』 ページ9
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たぶん、その声は震えていたと思う。
なんてことない、ただ名前を聞いただけなのだけれど、私にとっては酷く勇気のいることで、きっと明日スングァンに言ったら大層驚かれるだろうな、なんてことを考えていた。
すると、
「ジュンフィです」
王子様は、白い歯を覗かせながらそう言ったのだ。
ぶわりと花の香りをより一層感じて、世界が鮮やかに色づいていくような、そんな感覚を覚える。
ジュンフィ…
ジュンフィさん
ジュンフィさん
何度も心の中で唱える度に、胸が高鳴る。
その容姿に相応しい、すっと鼻に抜けていくような美しい響きだ。
控えめに「ジュンフィ、さん」とその名前を呼べば、彼は「はい」と返事をしてくれて、それだけで心が満たされたような気持ちになった。
「あの、この前のガーベラ、すごく良かったです。もう枯れちゃったんですけど、なんか…お花があるだけですごく癒されました」
勢いに乗れたのか、ここに来る前から言おうと心に決めていたこともきちんと伝えることができた。
「よかった〜」なんてふにゃりと笑う彼に、また心を掴まれる。
「今日も何かどうですか?」
「あ、はい。そのつもりで」
「そうだ!紫陽花はどうです?」
「いや、その…会社のデスクなので…」
「あ、そっかぁ」
今回も、ジュンフィさんがあれこれ紹介してくれた中からひとつを選ぶことにした。
少し悩んで、最終的に手にしたのはデルフィニウムというお花。
なんとなく、青い花を買いたくて。
レジカウンターのいた黒髪の店員さんの元でお会計を済ませる。
黒髪の店員さんとは相変わらず少しも目が合わなくて、ジュンフィさんとは真逆だなあ、なんて思いながら、差し出された花を受け取った。
外はまだ雨が降っている。
傘を開くと、紫陽花が再び花咲いた。
「やっぱり素敵ですね」
その声に振り返れば、ジュンフィさんがニコニコと笑いながらこちらを見ていて、どきんと心臓が跳ねる。
「あ、ありがとうございました」
「こちらこそ。またお待ちしてます、Aさん」
A、さん…
初めて呼ばれた自分の名前に、顔が熱くなっていくのを誤魔化すかの如く、ぺこりと慌てて頭を下げて店を後にする。
今日の『またお待ちしてます』は、この前よりも少しだけ、彼の本当の気持ちが混ざっているように聞こえた。
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ミラルカ(プロフ) - レンさん» コメント、ありがとうございます!わ〜よかったです!!ホッとしました 笑。後編も楽しんでいただけるように頑張りますね! (2019年11月26日 0時) (レス) id: 0059877645 (このIDを非表示/違反報告)
レン(プロフ) - じゅんぴの敬語、言われるまで気付きませんでした〜笑笑 この作品すごく好きなので続きが楽しみです! (2019年11月25日 21時) (レス) id: 7ddd2a9a14 (このIDを非表示/違反報告)
ミラルカ(プロフ) - satoetu61さん» コメント、ありがとうございます!この二人が一緒にいる作品、なかなかないですもんね…意外な組み合わせかなぁと思っていたのですが、こうして喜んでくださる方がいて安心しました!後編もよろしくお願いします〜! (2019年11月24日 23時) (レス) id: 0059877645 (このIDを非表示/違反報告)
satoetu61(プロフ) - 楽しみに読ませて頂いています。私の3人の推しの中の,2人スングァン、ジュンが出てくるので嬉しくて。2を楽しみにしています。 (2019年11月24日 23時) (レス) id: 02f0e3e684 (このIDを非表示/違反報告)
ミラルカ(プロフ) - ねこ娘さん» バ、バレておりましたか!鋭いですね…さすがです!(笑)主人公ちゃんがどのような答えを出すのかは、後編までのお楽しみということで…お待ちくださいませ〜〜! (2019年11月24日 19時) (レス) id: 0059877645 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ミラルカ | 作成日時:2019年10月18日 22時