８『知りたいのは』 ページ8
-
謝られたことに対して、訳がわからぬままではあるものの、とりあえず「いえ、そんな」と掌を前に出す。
「前も雨の日に来られてしましたよね。それで、その…傘が」
ここでようやく合点がいった。
“紫陽花さん” とは、やはり私で間違いなくて、王子様はこの傘の模様を覚えていてくれたのだ、と。
…私の頬、緩んでないかな。
「い、いいですよね、紫陽花。可愛いし…」
「はい。雨がよく似合うなーって思ってたんです」
「うちにもありますよ」と言ってスタスタと歩く背中について行くと、そこには青色やピンク色など、お馴染みの色が揃った紫陽花たち。
軒下に出されたそれは、外からの雨粒を少しだけその丸みを帯びた体に受けて、きらりと輝いていた。
ああ、確かに雨がよく似合う。
「紫陽花って、なんでこんなに色が違うのか知ってます？」
「えっ…いいえ」
「紫陽花は土壌の性質によって色が変わるんですよ。酸性だと青系、アルカリ性だと赤系、中間だと紫系になります」
「へぇ」
「まあでも、今は品種改良されて色が変わらないのが多いんですけどね」
やはり花のことを話し出すと、王子様は途端に饒舌になり、表情が生き生きする。
子供みたいに純粋無垢な瞳をキラキラさせて、次々と言葉を口から出すものだから、つい聞き入ってしまうのだ。
「ちなみに、紫陽花の花言葉が“浮気”とか“移り気”なのは、色が変わるのが由来です」
「う、浮気……」
あまり良くないその花言葉に、少しショックを受ける。
傘のせいで、王子様にそんな風に思われてたらどうしよう、なんてありもしないことを考えて。
私が肩を落としているのに気付いたのか、王子様は俯き気味になった私の顔を伺いながら、「あ、いや、でも」と少し慌てた様子で言葉を続けた。
「悪い意味だけじゃないです！色によって違う花言葉もあるんですよ！例えばほら、紫陽花さんのは青色だから、“辛抱強い愛情”とか…」
「あのッ…」
「はい？」
「A、です…」
「……え？」
「だから、その…名前、“紫陽花”じゃなくて、Aと…いいます」
きょとんと目を丸くしていた王子様は、ようやくその意味を理解したのか「ああ、失礼しました…！」とホッとしたような表情をした。
違う、謝ってほしいわけではないのだ。
聞きたいのは、
「それで、あの……貴方の、お、お名前は……」
-
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 609人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「SEVENTEEN」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ミラルカ(プロフ) - レンさん» コメント、ありがとうございます！わ〜よかったです！！ホッとしました 笑。後編も楽しんでいただけるように頑張りますね！ (2019年11月26日 0時) (
レス) id: 0059877645 (このIDを非表示/違反報告)
レン(プロフ) - じゅんぴの敬語、言われるまで気付きませんでした〜笑笑 この作品すごく好きなので続きが楽しみです！ (2019年11月25日 21時) (レス) id: 7ddd2a9a14 (このIDを非表示/違反報告)
ミラルカ(プロフ) - satoetu61さん» コメント、ありがとうございます！この二人が一緒にいる作品、なかなかないですもんね…意外な組み合わせかなぁと思っていたのですが、こうして喜んでくださる方がいて安心しました！後編もよろしくお願いします〜！ (2019年11月24日 23時) (レス) id: 0059877645 (このIDを非表示/違反報告)
satoetu61(プロフ) - 楽しみに読ませて頂いています。私の3人の推しの中の,2人スングァン、ジュンが出てくるので嬉しくて。2を楽しみにしています。 (2019年11月24日 23時) (レス) id: 02f0e3e684 (このIDを非表示/違反報告)
ミラルカ(プロフ) - ねこ娘さん» バ、バレておりましたか！鋭いですね…さすがです！(笑)主人公ちゃんがどのような答えを出すのかは、後編までのお楽しみということで…お待ちくださいませ〜〜！ (2019年11月24日 19時) (レス) id: 0059877645 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ミラルカ
| 作成日時：2019年10月18日 22時
