39『思い出の』 ページ39
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「うわ〜真っ暗!」
エレベーターを降りて、自動ドアの先を見たスングァンは、やけに大袈裟なリアクションをした。
確かに、雨が降っているせいか、今日は一段と暗い気がする。
「ほんとだね」と適当に返事をして、傘立ての方に向かうと、何本かのビニール傘に紛れて、青色の紫陽花が見えた。
それを手に取ろうとして、ぴたりと動作が止まる。
あ、れ……?
おかしい。何かが変だ。
不自然に静止した私を見て、スングァンが不思議そうに顔を覗き込む。
「ん、どうしたの?」
震える手で柄の部分を掴むと、それは私の手にちょうど収まった。
間違いない、私の傘だ。
私の傘、なのに…
ばさん、と傘立てから引っこ抜くと、それは力なく広がり、紫陽花を覗かせる。
よく見ると、強い風に飛ばされたように骨の部分がバキバキに折れていて、可哀想なほど滑稽な姿になっていた。
「あちゃー…ひどいね」
呆然と立ち尽くす私を横で、スングァンが遠慮がちに口を開く。
「これAちゃんのでしょ?しょうがないから、今日は僕の傘で……って、えッAちゃん!?」
エントランスいっぱいに声を響かせながら、スングァンのくりくりの目が大きく見開かれた。
次の瞬間、外の雨にも負けない大粒の雫がたくさん手元に落ちてきて。
自分が泣いていることを、そこでようやく悟った。
『紫陽花さん!』
ジュンフィさんがそう呼んでくれた、思い出の傘をなのに。
雨がよく似合うと、そう褒めてくれた…
「Aちゃん、どうしたの!?そんなに悲しかった…?」
手元の傘を呆然と見つめたまま次々に落涙する私を見て、スングァンは大層慌てている。
前までなら、「また泣くー」なんて慣れた様子で私を慰めてくれたことだろう。
だけど、ここ最近は私が泣かないようにしてきたからか、久しぶりにこうして涙を流す姿に驚いたようだ。
今まで我慢してきた分が、堰を切ったように止まることなく溢れ出す。
私がスングァンの質問に答えることなく、ただひたすら泣き続けると、困った彼はこんなことを言い出した。
「ごめん、Aちゃん……ごめん…!」
スングァンが謝る必要なんかないのに、どうやら彼の方も混乱しているようで、そう何度も謝罪の言葉を口にする。
「ごめん…」
この日、私はスングァンと相合傘をして帰ることになった。
王子様を見つけて以来、初めてお花屋さんに寄らずに帰った雨の日のことだ。
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ミラルカ(プロフ) - レンさん» コメント、ありがとうございます!わ〜よかったです!!ホッとしました 笑。後編も楽しんでいただけるように頑張りますね! (2019年11月26日 0時) (レス) id: 0059877645 (このIDを非表示/違反報告)
レン(プロフ) - じゅんぴの敬語、言われるまで気付きませんでした〜笑笑 この作品すごく好きなので続きが楽しみです! (2019年11月25日 21時) (レス) id: 7ddd2a9a14 (このIDを非表示/違反報告)
ミラルカ(プロフ) - satoetu61さん» コメント、ありがとうございます!この二人が一緒にいる作品、なかなかないですもんね…意外な組み合わせかなぁと思っていたのですが、こうして喜んでくださる方がいて安心しました!後編もよろしくお願いします〜! (2019年11月24日 23時) (レス) id: 0059877645 (このIDを非表示/違反報告)
satoetu61(プロフ) - 楽しみに読ませて頂いています。私の3人の推しの中の,2人スングァン、ジュンが出てくるので嬉しくて。2を楽しみにしています。 (2019年11月24日 23時) (レス) id: 02f0e3e684 (このIDを非表示/違反報告)
ミラルカ(プロフ) - ねこ娘さん» バ、バレておりましたか!鋭いですね…さすがです!(笑)主人公ちゃんがどのような答えを出すのかは、後編までのお楽しみということで…お待ちくださいませ〜〜! (2019年11月24日 19時) (レス) id: 0059877645 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ミラルカ | 作成日時:2019年10月18日 22時