検索窓
今日:9 hit、昨日:3 hit、合計:187,978 hit

39『思い出の』 ページ39

-


「うわ〜真っ暗!」


エレベーターを降りて、自動ドアの先を見たスングァンは、やけに大袈裟なリアクションをした。

確かに、雨が降っているせいか、今日は一段と暗い気がする。

「ほんとだね」と適当に返事をして、傘立ての方に向かうと、何本かのビニール傘に紛れて、青色の紫陽花が見えた。

それを手に取ろうとして、ぴたりと動作が止まる。


あ、れ……?


おかしい。何かが変だ。

不自然に静止した私を見て、スングァンが不思議そうに顔を覗き込む。


「ん、どうしたの?」


震える手で柄の部分を掴むと、それは私の手にちょうど収まった。

間違いない、私の傘だ。

私の傘、なのに…

ばさん、と傘立てから引っこ抜くと、それは力なく広がり、紫陽花を覗かせる。

よく見ると、強い風に飛ばされたように骨の部分がバキバキに折れていて、可哀想なほど滑稽な姿になっていた。


「あちゃー…ひどいね」


呆然と立ち尽くす私を横で、スングァンが遠慮がちに口を開く。


「これAちゃんのでしょ?しょうがないから、今日は僕の傘で……って、えッAちゃん!?」


エントランスいっぱいに声を響かせながら、スングァンのくりくりの目が大きく見開かれた。

次の瞬間、外の雨にも負けない大粒の雫がたくさん手元に落ちてきて。

自分が泣いていることを、そこでようやく悟った。


『紫陽花さん!』


ジュンフィさんがそう呼んでくれた、思い出の傘をなのに。

雨がよく似合うと、そう褒めてくれた…


「Aちゃん、どうしたの!?そんなに悲しかった…?」


手元の傘を呆然と見つめたまま次々に落涙する私を見て、スングァンは大層慌てている。

前までなら、「また泣くー」なんて慣れた様子で私を慰めてくれたことだろう。

だけど、ここ最近は私が泣かないようにしてきたからか、久しぶりにこうして涙を流す姿に驚いたようだ。

今まで我慢してきた分が、堰を切ったように止まることなく溢れ出す。

私がスングァンの質問に答えることなく、ただひたすら泣き続けると、困った彼はこんなことを言い出した。


「ごめん、Aちゃん……ごめん…!」


スングァンが謝る必要なんかないのに、どうやら彼の方も混乱しているようで、そう何度も謝罪の言葉を口にする。


「ごめん…」


この日、私はスングァンと相合傘をして帰ることになった。

王子様を見つけて以来、初めてお花屋さんに寄らずに帰った雨の日のことだ。


-

40『せっかくなのに』→←38『珍しく』



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.9/10 (268 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
609人がお気に入り
設定タグ:SEVENTEEN , JUN , ジュン   
作品ジャンル:タレント
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

ミラルカ(プロフ) - レンさん» コメント、ありがとうございます!わ〜よかったです!!ホッとしました 笑。後編も楽しんでいただけるように頑張りますね! (2019年11月26日 0時) (レス) id: 0059877645 (このIDを非表示/違反報告)
レン(プロフ) - じゅんぴの敬語、言われるまで気付きませんでした〜笑笑 この作品すごく好きなので続きが楽しみです! (2019年11月25日 21時) (レス) id: 7ddd2a9a14 (このIDを非表示/違反報告)
ミラルカ(プロフ) - satoetu61さん» コメント、ありがとうございます!この二人が一緒にいる作品、なかなかないですもんね…意外な組み合わせかなぁと思っていたのですが、こうして喜んでくださる方がいて安心しました!後編もよろしくお願いします〜! (2019年11月24日 23時) (レス) id: 0059877645 (このIDを非表示/違反報告)
satoetu61(プロフ) - 楽しみに読ませて頂いています。私の3人の推しの中の,2人スングァン、ジュンが出てくるので嬉しくて。2を楽しみにしています。 (2019年11月24日 23時) (レス) id: 02f0e3e684 (このIDを非表示/違反報告)
ミラルカ(プロフ) - ねこ娘さん» バ、バレておりましたか!鋭いですね…さすがです!(笑)主人公ちゃんがどのような答えを出すのかは、後編までのお楽しみということで…お待ちくださいませ〜〜! (2019年11月24日 19時) (レス) id: 0059877645 (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:ミラルカ | 作成日時:2019年10月18日 22時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。