38『珍しく』 ページ38
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しとしと、窓の外で雨が降っている。
その音に、ようやくかとため息が出たのは、とっくに終業時間を過ぎた頃だった。
最近は雨が降っても只の狐の嫁入りで終わってしまうことが多く、その度に肩を落としていたけれど、今日は正真正銘の雨だ。
「Aちゃん、終わったー?」
「あ、うん…終わったよ」
私のパソコンと、その後ろのデスクライト以外、全ての光が消えたオフィス内の冷えた空気は、私たちの会話をやけに響かせた。
あれ以来、直接的な嫌がらせはないものの、こうして毎日のように身に覚えのないミスを押し付けられ、私だけ残業を強いられる生活はずっと続いている。
そして、今日は珍しくスングァンが一緒に残ってくれていた。
別に頼んだわけでもないのだが、彼は時間になっても帰ろうとはせず、デスクの中に忍ばせていたお菓子を貪りながら、適当にスマホを弄って待っていたのだ。
親切心を踏みにじりたくはなくて、あえて何も聞かないけれど、どうして今日に限って、という疑問は胸の中につっかえていて。
「よーし、じゃあ僕も帰ろ」
椅子から立ち上がり、「んー」と気持ち良さそうに伸びをするスングァン。
やはり彼は私の仕事が終わるのを待っていてくれたらしい。
ふいに「ごめんね」と謝れば、スングァンは私に顔を向けないまま「なにが?」と。
ああ、私は彼にぐずぐずに甘やかされているのだ、と確認するには、それだけで十分だった。
帰り支度を既に済ませていたスングァンは、私より早く席を立つ。
もしかして、ここまで待ってくれたのに、最終的に私を置いて帰るつもりなのだろうかと思い、その姿を見ていると、彼はふと窓のそばで立ち止まった。
「…雨だね」
ぽつり。
彼は雨で濡れた窓を見つめながら零すようにそう言った。
その意図がわからぬまま「そうだね」と返すと、彼は私の方に視線をやる。
何か言いたげな目だ。だけど、上手く汲み取れない。
しばらくお互いに無言で見つめ合っていると、その空気を壊したのは、スングァンの方だった。
「ほら、Aちゃん。早く帰る準備しなよ」
フッと笑いながらそう言って、「こういうとこ遅いんだよな〜Aちゃんは」なんて小言をぶつぶつ垂れながら扉へ向かう彼。
いつも通りの様子にほっと肩を撫で下ろしつつ、「ま、待って!」と慌てて帰り支度を済ませ、その後を追うと、スングァンは扉に手をかけたまま「早くー」と口を尖らせて待っていた。
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ミラルカ(プロフ) - レンさん» コメント、ありがとうございます!わ〜よかったです!!ホッとしました 笑。後編も楽しんでいただけるように頑張りますね! (2019年11月26日 0時) (レス) id: 0059877645 (このIDを非表示/違反報告)
レン(プロフ) - じゅんぴの敬語、言われるまで気付きませんでした〜笑笑 この作品すごく好きなので続きが楽しみです! (2019年11月25日 21時) (レス) id: 7ddd2a9a14 (このIDを非表示/違反報告)
ミラルカ(プロフ) - satoetu61さん» コメント、ありがとうございます!この二人が一緒にいる作品、なかなかないですもんね…意外な組み合わせかなぁと思っていたのですが、こうして喜んでくださる方がいて安心しました!後編もよろしくお願いします〜! (2019年11月24日 23時) (レス) id: 0059877645 (このIDを非表示/違反報告)
satoetu61(プロフ) - 楽しみに読ませて頂いています。私の3人の推しの中の,2人スングァン、ジュンが出てくるので嬉しくて。2を楽しみにしています。 (2019年11月24日 23時) (レス) id: 02f0e3e684 (このIDを非表示/違反報告)
ミラルカ(プロフ) - ねこ娘さん» バ、バレておりましたか!鋭いですね…さすがです!(笑)主人公ちゃんがどのような答えを出すのかは、後編までのお楽しみということで…お待ちくださいませ〜〜! (2019年11月24日 19時) (レス) id: 0059877645 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ミラルカ | 作成日時:2019年10月18日 22時