4『やっぱり』 ページ4
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王子様のいるお城…とは形容し難い小さな花屋は、すとんと何事もなく立っていた。
傘の柄を握る手に力が入る。
そろりそろりと伺うようにして中を覗けば、
あ、いる。
やはり見間違いなどではなかった。
その人は何度見てもやっぱり王子様で、綺麗な線を描く横顔は、まるで彫刻のよう。
ああ、雨さえなければ、ここからでも鮮明にその姿を見ることができるのに、と。
王子様と巡り合わせてくれたはずの雨を、今ばかりは少しだけ恨めしく思った。
いや、簡単な話だ。
店の中に足を踏み入れてしまえば、雨は王子様と私の間を邪魔することはできない。
なのに私はひどく臆病で、じっと花屋の前に佇んだまま、どちらかといえば、このまま帰ってしまおうかという気持ちの方が優っていた。
絵画のようなその空間に私の黒色を落とすのは、とても気が引けたのだ。
まるで、美しい庭に立つ王子様を塀の外から眺める、身分の低い町娘のような気分だった。
このまま帰れば、きっと明日スングァンに泣きつくことになるだろうと自覚しながらも、今なけなしの勇気を振り絞るよりはその方がずっと楽だと判断した私は、完全に諦めていたのだと思う。
だから、驚いたのだ。
「あの…?」
その大きな瞳が私を映し、こちらに近寄ってくることに。
あ、やばい。ダメだ。
なぜか頭の中はそんな言葉でいっぱいで、どんどん鮮明になるその姿に、ただ息を飲む。
王子様は屋根のあるギリギリのところまでやってくると、動かない私を見て不思議そうに首を傾げた。
茶色の前髪がさらりと横に流れて、そのひとつひとつに目を奪われる。
「いらっしゃいませ」
その人は、そう言ってキュッと口角を上げた。
王子様がしがない町娘に声をかけ、あろうことか微笑みまで向けたのである。
許されていいのだろうか、こんなことが。
投げかけられた言葉は、町娘が城の中に入るのを許されたような…いや、むしろ、そう促されたようなもので。
困惑しつつも、王子様の言葉に平民が逆らえるはずもなく、小さく頭を下げ、棒になっていた足を何とか前に動かした。
ぱさんと傘を閉じ、頭上の紫陽花をしぼめた代わりに、私はいっぱいの花に囲まれる。
鼻腔をくすぐる艶やかな香り。
いろいろな花の香りが混ざり合ったそれは、まるで麻酔のように私の思考をふわふわと溶かしていった。
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ミラルカ(プロフ) - レンさん» コメント、ありがとうございます!わ〜よかったです!!ホッとしました 笑。後編も楽しんでいただけるように頑張りますね! (2019年11月26日 0時) (レス) id: 0059877645 (このIDを非表示/違反報告)
レン(プロフ) - じゅんぴの敬語、言われるまで気付きませんでした〜笑笑 この作品すごく好きなので続きが楽しみです! (2019年11月25日 21時) (レス) id: 7ddd2a9a14 (このIDを非表示/違反報告)
ミラルカ(プロフ) - satoetu61さん» コメント、ありがとうございます!この二人が一緒にいる作品、なかなかないですもんね…意外な組み合わせかなぁと思っていたのですが、こうして喜んでくださる方がいて安心しました!後編もよろしくお願いします〜! (2019年11月24日 23時) (レス) id: 0059877645 (このIDを非表示/違反報告)
satoetu61(プロフ) - 楽しみに読ませて頂いています。私の3人の推しの中の,2人スングァン、ジュンが出てくるので嬉しくて。2を楽しみにしています。 (2019年11月24日 23時) (レス) id: 02f0e3e684 (このIDを非表示/違反報告)
ミラルカ(プロフ) - ねこ娘さん» バ、バレておりましたか!鋭いですね…さすがです!(笑)主人公ちゃんがどのような答えを出すのかは、後編までのお楽しみということで…お待ちくださいませ〜〜! (2019年11月24日 19時) (レス) id: 0059877645 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ミラルカ | 作成日時:2019年10月18日 22時