24『気付くには』 ページ24
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目の前にある背中は間違いなくミンハオくんだった。
彼は傘を持つ反対の手で、先輩の高く振り上げられた手首を掴んでいる。
ミンハオくんが掴んでいなければ、先輩の手が私の頬に落ちていたであろうことは、一目瞭然だ。
「…なんなのよ、弟」
先輩が不機嫌そうに声を漏らすと、ミンハオくんは掴んでいた手を振り払った。
「ミンハオくん…?」という弱々しい私の呼びかけには少しも反応することなく、彼は先輩と真っ直ぐに対面している。
「…アンタさ」
先日、私に向かって発せられたものより、ずっとずっと低い声が小さく耳に届き、ぞっと背筋が凍るのを感じた。
「もう来なくていいから」
「はあ?何言って…」
「アンタみたいな客、ほんとに迷惑。だから出禁ね。二度と店に来ないで」
先輩に有無を言わさないその口調に、先輩は信じられないといった表情をした後、何も言い返すことなく、私たちに背を向けて公園を出て行った。
コツコツとわざとらしく鳴らされたヒールの音は、まさに彼女の怒りをまざまざと表している。
その音がようやく聞こえなくなったところで、背を向けていたミンハオくんが、ゆっくりとこちらに振り返った。
てっきり鬼の形相をしているものだと思って一瞬びくりと身構えたが、予想に反して彼が私を映す目は優しくて。
雨音だけが響く無言の空気を破ったのは、意外にもミンハオくんの方だった。
「…嫌いなんだよ、ああいう客」
「……え?」
「ジュニヒョンに近づきたいがために店に来て、毎日花買って帰って…そんで用が済んだら、こうやって花捨てんの」
「……」
「ぶっちゃけ、花なんて毎日買ったら溢れかえるだけじゃん。世話すんのも大変だし。だから捨てたんじゃないの、あの人も」
その大変な世話を、ジュンフィさんとミンハオくんは毎日やっているわけで。
そうやって手間をかけて育てた花をあんな風にされたら、そりゃ怒るのも当たり前だ。
「前にも見たんだよ、花捨てる女。それに、ちょくちょくこのゴミ箱に捨てられてるのも見るし」
「だから」と続けられた言葉は、私の心にスッと届く。
「アンタもそうなんだって思ってた」
それは、つまり…
「ひどいこと言って、ごめん」
ミンハオくんは、真っ直ぐに私と目を合わせたまま、そう言った。
彼はひねくれた性格なんかじゃなく、むしろ心が綺麗なのだと気付くには、もうそれだけで十分だった。
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ミラルカ(プロフ) - レンさん» コメント、ありがとうございます!わ〜よかったです!!ホッとしました 笑。後編も楽しんでいただけるように頑張りますね! (2019年11月26日 0時) (レス) id: 0059877645 (このIDを非表示/違反報告)
レン(プロフ) - じゅんぴの敬語、言われるまで気付きませんでした〜笑笑 この作品すごく好きなので続きが楽しみです! (2019年11月25日 21時) (レス) id: 7ddd2a9a14 (このIDを非表示/違反報告)
ミラルカ(プロフ) - satoetu61さん» コメント、ありがとうございます!この二人が一緒にいる作品、なかなかないですもんね…意外な組み合わせかなぁと思っていたのですが、こうして喜んでくださる方がいて安心しました!後編もよろしくお願いします〜! (2019年11月24日 23時) (レス) id: 0059877645 (このIDを非表示/違反報告)
satoetu61(プロフ) - 楽しみに読ませて頂いています。私の3人の推しの中の,2人スングァン、ジュンが出てくるので嬉しくて。2を楽しみにしています。 (2019年11月24日 23時) (レス) id: 02f0e3e684 (このIDを非表示/違反報告)
ミラルカ(プロフ) - ねこ娘さん» バ、バレておりましたか!鋭いですね…さすがです!(笑)主人公ちゃんがどのような答えを出すのかは、後編までのお楽しみということで…お待ちくださいませ〜〜! (2019年11月24日 19時) (レス) id: 0059877645 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ミラルカ | 作成日時:2019年10月18日 22時