風が吹いて

暗示 ページ33

しかし、ずっとこのままというのもあれなので少し暗示でもかけよう


「佐久間さん、あなたは勘違いをしている。私が今着ているのはワンピースです。」


「いや、どこからどう見ても男物のＹシャツ...。」


「そう思うからダメなんです!ワンピースだと自分に思い込ませるんです。

私が着ているのはワンピース、佐久間さんもご一緒に!」


「柊が着ているのはワンピース、柊が着ているのはワンピース...

確かに、そう思うと気が楽になったような気がする!」


「そうでしょう!これで問題はありませんね。」


「いや、大ありだ。」


福本さんは私たちに突っ込みを入れるとキッチンの方へ戻っていった


特にすることもなく、佐久間さんの正面の席に腰かけた


というか、シャツが長くて手が出ていない


私が困っているのに気付いたのか、佐久間さんは部屋に一度戻り何かを持ってきた


「柊、少し失礼するぞ。」


私の腕をつかみシャツの袖を肘まで折るとアームバンドで固定してくれた


これで両の手が服に邪魔されず使えるようになった


「ありがとうございます。」


「なに、そのままでは生活しづらいだろうと思っただけだ。」


「はい、お気遣い感謝です。」


「それと、Aと呼んでもいいだろうか。同じ宿の住民なのだからできるだけ

親しくと思ってだな...いやなら柊に戻すが。」


「構いませんよ。でも、他の人たちのことは名字で呼んでますよね。

下の名前で呼ばないんですか?」


我ながら随分と意地の悪い質問をしたと思う


そしたら佐久間さんは少し困ったような顔をする


「あいつらは特別なんだ。あまりそこらへんには触れるな。」


特別、ね


「わかりました。」

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