続・妄想短編集【ジョーカー・ゲーム】

ふくじつ：ナズナ ページ32

《福本side》


実井は見かけによらずよく食べる。

食べる所作の美しさで、ゆっくり見えてしまうため、

あまり食べていないように見えるが、

波多野より食べているのではないかというほどに、実井の胃は大きい。


そして今日は人日の節句だった。

本来は朝に七草粥を食べるのがしきたりだが、

訓練の関係上それが出来なかったので夜に食べることになった。


男約１０人前を作る傍ら、少し小ぶりな鍋で、

ナズナを多めに入れたものを作った。

彼は、気付くだろうか。



「お、七草粥」

「人日の節句かー」

「人を殺さない日、だったっけ」

「まさに俺らって感じの日だな」

「福本、お疲れ様です」



いつもと同じ時間に食堂に他の機関員が入ってくる。

実井が俺に労いの言葉をかけるのは既に日常の一部と化していた。




「いただきます」




無宗教にもかかわらずなぜかやってしまうこの神道の挨拶を済ませ、

各々粥に手を付けていく。


大量に作ったはずの七草粥は、

１５分くらいのうちに大半が俺たちの腹に収まってしまった。



中佐は今日は外出しているはずなので、

取りあえず佐久間さんの分だけを残し、俺と実井以外は部屋に戻っていった。




「福本」




珍しく、本から目線を上げた実井に声をかけられた。



「何だ」

「僕の七草粥、皆さんよりナズナが多かったと思うんですけど」

「そうか」

「愛の告白ですか？」

「さあ」

「それにしては、随分と献身的なものを入れてきたものですね。

　貴方らしいと言えばそうなのかもしれませんが」

「まあ、そういうことにしておいてくれ」

「美味しかったです。ごちそうさまでした。

　＿＿今日は星が綺麗ですね」

「……ああ、そうだな」



それだけ言って実井は食堂を出て行った。


『とらわれるな』。


そう。とらわれてはいけないのだ。

それで何人辞めていったと思っている。




自分に言い聞かせ、ふたを閉じ、鍵を掛ける。




(……難しいものだな)




冬の食堂がいつもより寒く感じられた。




【ナズナ】……貴方に私の全てを捧げる

＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
何 で 切 な く な っ た ！ ？
書いた本人が一番混乱している

さくみよ：再会→←みよさく：カルセオラリア

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