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9話 真摯な眼差し ページ10

ヒースクリフ「賢者様、ありがとうございました。もう大丈夫です」


晶「そうか、礼には及ばねえよ」




流石にたくさんの兵隊の中でおんぶされるのは恥ずかしかったらしい。

ヒースクリフは律儀に礼を言って降りる。


俺としても、囲まれて、降ろすタイミングを逃したから助かった。


それにしても、どうしたもんか。


俺一人なら、この程度の人数問題にならねえが、今回は疲弊したヒースクリフを守りながらになる。

今まで一人で仕事をやって来たから、守ってやれる自信はねえ。


うんうんと唸っていると、救世主が現れた。


突然踊り場の窓から、不思議な香りの、白い煙が漂ってくる。

ワインのような、くらくらする甘い香りだ。


はっとして顔を上げると、先程には誰もいなかったはずの窓辺に、一人の男が腰掛けていた。


優しそうに微笑みながら、どこか、妖しげな色気を漂わせている。

口元にくわえた、長いパイプのせいかもしれない。




???「こんばんは」


ヒースクリフ「シャイロック!」


???「いけない人。
カインと二人で無茶をして……。空を飛ぶのもやっとだったでしょう」


ヒースクリフ「だって、ファウスト先生が……」


???「わかっていますよ。後は、私たちに任せなさい」




青ざめたヒースクリフの頬を撫でて、男はヒースクリフの肩越しに、俺に微笑みかけた。




???「はじめまして、賢者様。私は西の国の魔法使い、シャイロック」


晶「魔法使い……」




やはりまだ、自分の中で現実味を持たないその言葉を、意味もなく反芻してみる。


そんな俺を見て、シャイロックは、にこりと上品に笑った。

艶めいた仕草で、パイプを口にくわえる。




兵隊「ま、魔法使いがまた増えた!」

兵隊「ひ、怯むな!
〈大いなる厄災〉との戦いで、力を使い切っているはずだ……!」




シャイロックは何も言わずに、ふう、とパイプの煙を吐き出した。

すると、白い煙がぷかぷかと漂って、ワインのような甘い香りを部屋中に広げていく。


兵隊たちは酔っ払ったように、急にふらふらし始めた。




兵隊「ふふ……。あれれ……?なんか楽しくなってきたぞ……」


兵隊「へへ……。暖かそうなベッドだ……。もう寝ちゃおう……」




あっという間に、兵隊たちは、ごきげんな顔をしながら、ばたばたと床に倒れていく。




晶「はあ…」




やっぱり弱すぎる。

催眠耐性くらいつけろよ。


高く足を組み直して、シャイロックはパイプから唇を離した。

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作者名:ark | 作成日時:2021年8月14日 14時

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