３５話 ページ36
晶「穏やかじゃねえな」
カイン「俺もうかつだった。いつか、あいつに勝って取り戻すつもりだが」
晶「随分痛かっただろ」
カイン「ああ、痛かった。しばらく俺の言うことを聞かずに、勝手に、よそのものを見ようとするし」
晶「そりゃ迷惑な話だな」
カイン「ああ」
思い切り眉をしかめた後、カインは真剣な顔つきになった。
カイン「オーエンだ」
晶「そいつの名前か？」
カイン「ああ。北の魔法使いオーエンと言う。あいつにはあまり近づくなよ。
オーエンに会ったら、まず目をそらせ。その次に、オーエンの言葉を聞くな。オーエンと会話したら最後だ。
しっかり自我を持っていないと、闇の底に引きずられる」
晶「わかった。…忠告感謝する」
真面目な表情を浮かべる俺を見て、カインは親しげに笑った。
カイン「大丈夫さ。何かあったら、俺が守ってやる。オーエンはあまり寄り付かないしな。
おっと、敬語を忘れてました。すみません、賢者様。よく叱られるんですけど、つい……」
晶「クックッ、そうだな。俺が扉を開けた時から、敬語が抜けてたぞ」
カイン「え、そんなに前から…ですか？」
晶「おう。ま、俺は気にしねえがな。
叱られるっつうのは、昨日のドラモンドとか言うやつになんだろ？だったら別にここではいいんじゃねえか？敬語とかなくても」
カイン「そうか？助かるよ。礼儀作法は苦手なんだ。俺のことも友人だと思ってくれ」
前に身を乗り出しながらそういったカイン。
友人という言葉に、一瞬優を思い出した。
晶「俺も敬語は、使うのも使われるのも得意じゃねえ。好きな話し方でいいさ。
それと、俺はお前に守られるほど弱くねえから安心しろ。自分の身くらい、自分で守れるさ」
カイン「そうか？でも、オーエンには気をつけろよ？」
晶「おう」
一度やられたからか、ものすごく心配してくれているらしい。
俺も用心しようと再び考えながら頷く。
カインはそれを見ると、切り替えるように部屋の外へと歩き出した。
カイン「外を歩こう。散歩しながら、あんたの頼み事を聞くよ」
晶「もう双子から聞いたのか？」
カイン「ああ。アーサー殿下に会いたいんだろう？元の世界に帰るために」
カインは寂しげに笑った。
「俺はあんたに、この世界にいて欲しいけどな」
引き留めたり、露骨に悲しそうな顔もしない。
双子もそうだったが、カインも、どこまでも紳士らしい。
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作者名：ark | 作成日時：2021年8月14日 14時
