34話 その手に触れて ページ35
カインは中央の国の騎士だから、中央の国のアーサー王子の知り合いだって、言ってたな……。
カイン「賢者様。まだ、寝てるのか?」
晶「起きてるよ。さっき返事したろ?
今着替える、ちょっと待っててくれ」
カイン「そんなこと気にしなくていいのに。寝起きのままでも、賢者様は素敵だ」
その言葉に、なんともいえない気持ちになる。
素敵っつうのは別に、綺麗や可愛いだけの意味じゃねえから、間違っちゃいねえんだが……。
男の、殺しばっかやってた俺に綺麗っつうのは、なんか似合わねえような気がした。
カイン「でも、まあ、騎士のマナーだ。待ちましょう」
晶「悪いな、すぐ終わらせる」
カイン「ごゆっくり」
さっきの言葉といい、今の言葉といい……。
カインは多分無意識なんだろうが、その紳士っぷりには驚かされる。
朝一番の殺し文句に、威圧をかけない返事……。
さすが元騎士団長といったところだろう。
そんなことを考えながら俺は準備を整えて、扉を開けた。
すると、笑顔を浮かべていたカインが、急に変な顔をする。
カイン「あれ?どこにいるんだ?」
晶「あ?ここにいるぞ」
カイン「どこに?」
晶「目の前……」
カイン「目の前?いないじゃないか、ほら」
_____まさか、俺が見えてねえのか?
一瞬そんな考えが過ぎる。
ほら、と手を伸ばしたカインの腕を掴むと、ようやく見えたようで視線があった。
カイン「あ、いた。
どうして、隠れてたんだ?」
晶「?隠れてねえよ。俺は魔法使えねえからな」
カイン「そうなのか……。なら、何故見えなかったんだろう」
晶「…………」
カインは少しだけ考え込むと、ぱっと顔を上げた。
カイン「まあいいか」
晶「いや軽いな?
……いいのかよそれで?」
カイン「この片目のせいかもしれない。
ほら、こっちの方、目玉が赤いだろ?」
カインはそう言うと、あかんべするように、片目を指さした。
カイン「こっちの赤い色の方は、元々、俺の目じゃないんだ」
晶「カインの目じゃない………?」
カイン「ああ。性格の悪い魔法使いに、無理矢理、片目をえぐり取られてな」
「えぐり取られる」という言葉に、眉をしかめる。
元の世界ではよく聞く話だったが、一日経たねえうちに、それは懐かしく感じられた。
カイン「そこに、そいつの目をはめ込まれたんだ」
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作者名:ark | 作成日時:2021年8月14日 14時