26話 一抹の不安 ページ27
晶「なあ、スノウ…さん、ホワイト……さん」
先程の会話を見ている感じ、見た目通りの年齢ってわけじゃなさそうだったから、なんとなく、後付けで敬称をつける。
二人は顔を見合わせてくすくすと笑いながら、俺に言った。
スノウ「我に対して、敬称は使わんで良いぞ。賢者とはそういうものじゃ」
晶「そりゃあ良かった。あんま得意じゃねえんでな。
んじゃ、スノウ、ホワイト、案内って、どこに向かってんだ?」
ホワイト「賢者の書がある場所じゃ」
スノウとホワイトが、俺を案内してくれた場所には、無数の本が蔵書されていた。
歴史と知識の量を感じて、思わず、圧倒される。
図書館なんて入ったこともなかったから、こんなにたくさんの本が並んでいる光景に、少し後ずさる。
晶「……これは……」
スノウ「すべて賢者の書じゃ」
晶「これ、全部かよ……?」
ホワイト「そうじゃ。異界からこの世界にやってきた者たちの残したものじゃ」
スノウ「これが前の賢者の記した賢者の書じゃ」
ホワイト「我々には読めぬ文字で、書かれているが、おぬしには読めるじゃろうか?」
ずしりと重い、立派な本を手渡されて、俺は少し緊張した。
本なんて、生まれて初めて持ったから。
鼓動を早めながら、表紙を開く。
そこに書かれていたのは、日本語だった。
とりあえず読めることに、安心した。
『10月30日。
ハロウィンの夢からなかなか醒めない。
楽しい夢だし、まあいいか』
初めの文は、そんな一文から始まった。
呑気な言葉だ。
恐らく前の賢者はカタギだったんだろう。
『11月3日。
魔女がかわいい。パレードをした。
みんなの人気者みたいで気分がいい』
まだ俺は男しか会ってねえが、魔女がいる、いや、いたらしい。
さっきの部屋にはいなかったから、相当薄情でもなければ、死んだ以外にねえだろう。
いつまで夢だと思ってるのか、前の賢者の日記のような言葉は、どれも呑気だった。
『11月10日。
いくらなんでも夢が長すぎる。
まさか、夢じゃないのか?』
『どうやったら日本に帰れるんだ?
東京に帰りたい……。
ラーメンとおでんとカレーが食べたい……』
見るに、段々と気付き始めたらしい。
少しずつ、文から不安が顔を覗かせるようになってきた。
夢じゃねえと、もう自覚して、諦めちまったからこそ、俺はこの本を冷静に観察できた。
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作者名:ark | 作成日時:2021年8月14日 14時