１３話 誰のため ページ14
久しぶりに優のことが頭に浮かんで、胸が締め付けられるように苦しくなった。
ずっとうちに隠して、留めておいた記憶が、あいつの笑顔が消えていく瞬間が、脳に溢れ出して。
赤く染まっていく、ヒースクリフの瞼が、あの日の俺に重なって見えた。
ヒースクリフの思いが、痛いほどよくわかった。
ヒースクリフ「……っ、お願いです……。
どうか、先生を助けてください……」
俺は、すぐに頷いた。
何かしてやれることがあるなら、してやりたいと思った。
大切な人を救えなかったからこそ、こいつにはあんな思いをしてほしくないと、まだ会ったばかりのはずのヒースクリフに、そんなふうに思っていた。
晶「わかった。俺に出来ることがあるならやってやる」
ぱっとヒースクリフの顔に、安堵と笑顔が広がる。
こんな笑い方をする奴だったんだと、驚くほど、あどけない、純粋な笑みだった。
ヒースクリフ「ありがとうございます、賢者様……」
ドラモンド「待て！魔法使いどもめ！賢者を渡しはせんぞ……！」
その時、ドラモンドとクックロビンが、大声を上げながら、階段を駆け下りて来た。
ドラモンドは俺を見るなり、叱りつけるような大声で言った。
ドラモンド「賢者様！騙されてはいけません！魔法使いは、いい加減で、嘘つきです！
ためらいもなく人を騙すし、不思議な力で、心を操ります！
魔法使いを信じてはいけません！」
俺は三人を振り返った。
カインは眉をしかめて、ヒースクリフは傷ついた顔をする。
シャイロックだけが、笑っていた。
小首を傾げて、パイプを揺らしながら。
シャイロック「私たちが正直者だとしたら、あなたは嘘をおっしゃったことになりますね。
あなたの言う、いい加減な嘘つきと同じ」
ドラモンド「私は国のために仕えているのだ！不真面目なおまえたちとは違う！」
シャイロック「お黙りになって。ドラモンド様。
あなたは私たちに話しかけているつもりでしょうが、本当は私たちと対話する気はないのです。
あなたの言葉から伝わるのは、あなたが私たちのことを、あまり、好きではないということだけ。
あなたは私たちが話すことが、真実だとしても信じないでしょうし、私たちが嘘をつけば、ほっとするでしょう。
あなたはあなたの嫌いな私たちが、嘘つきだと信じたいから。
ならば、真実と嘘に意味はありますか？」
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作者名：ark | 作成日時：2021年8月14日 14時
