10話 ページ11
シャイロック「いい夢を」
その時、階段の上から、カインが駆け寄ってきた。
カイン「シャイロック、助かった!」
シャイロック「貸しにしておきますよ。今度、一杯ご馳走してくださいね」
カイン「一杯と言わず、一晩付き合うさ。
賢者様、行きましょう」
カインに手を伸ばされても、俺はすぐについていくことが出来なかった。
この世界のことを知るためには、伝手がいる。
そして、二つのうち一つは襲ってきた。
安全面が弱いから、もうカインたちについていく他、道はないんだが…。
それでも、まだ完全に信用したわけじゃねえ。
カインの手を取っていいか迷って、視線をさまよわせる。
どこにいくかも、わからないのについていくのは、危険じゃねえか?
一瞬、浮かんだ俺の迷いを見逃さずに、カインが足を止める。
カインはくたびれた様子も見せずに、優しく、真摯に頷いた。
カイン「ああ……。悪かった。
賢者様は異界からやって来るんだよな。じゃあ、あんたは何も知らないわけだ。
何も知らないのに、ついてこいって言われても怖いよな。……ええと……」
シャイロック「カイン。この世界や賢者の役目について、全部説明してる暇はありませんよ」
カイン「わかってる。
だが、何も知らない相手を、連れ去るのは騎士の仕事じゃない」
カインは少し考え込んでから、真っ直ぐに、俺の顔を覗き込んだ。
カイン「晶、単純な説明をしよう。
俺たちはあんたの力が必要だ。あんたの力を貸してほしい。
なんでかっていうと、俺たちがボロ負けしたからだ。毎年簡単に勝ってた勝負に大負けした。
油断したつもりも、手を抜いたつもりもない。ひげのじいさんたちは、俺たちがいい加減に、仕事したと思って怒ってる。
だが、そうじゃない。
なんだかわからないまま、俺たちは負けて、仲間を半分失った。
もう、何も失いたくない……。だから、あんたの力を貸して欲しい。
もちろん、それは俺達のわがままだ。この世界はあんたの世界じゃないし、あんただってしたいことがあるだろう。あんたには断る権利があるし、それは誰かに責められることじゃない。
だけど、俺たちは……。
どうしても、あんたが必要だ。
あんたが一緒に来てくれて、力を貸してくれるなら、何だってしよう。俺が示せるだけの勇気と誠意を見せよう。この身で返せるだけの、感謝と礼を示そう。この誓いに形はないが、どうか、頼む。
俺たちを信じて、俺たちに力を貸してくれないか」
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作者名:ark | 作成日時:2021年8月14日 14時