七十六話 人を殺して死ねよとて(前編) ページ27
_____翌朝。
探偵社では朝から、国木田の素っ頓狂な声が響いた。
「太宰が行方不明ぃ?」
ありえない、そう言いたげな顔の国木田に、敦は言う。
「電話も繋がりませんし、下宿にも帰っていないようで」
至って真面目な敦。
しかしそれを聞いても尚探偵社のものたちは動こうとしなかった。
「また川だろ」
「また土中では?」
「また拘置所でしょ」
『ま、すぐ帰ってくるって。心配しなくても、治君は弱くないしね』
「しかし先日の一件もありますし……。まさかマフィアに暗殺されたとか……」
社員たちが耳を貸していなくとも、敦は説明を続ける。
しかし、それを聞いた後も尚、国木田達は相手にもしなかった。
「阿呆か。
あの男の危機察知能力と生命力は悪夢の域だ。あれだけ自 殺未遂を重ねて、まだ一度も死んでない奴だぞ」
『治くん自身ですら殺せないのに、マフィアが殺せるはずないよ』
国木田はコーヒーカップを置き、Aは自分の紅茶に砂糖を転がして言った。
____太宰をよく知る二人の言葉。
しかしそれでも、敦は心配が拭えない。
「でも……」
「ボクが調べておくよ」
不安そうな敦の声に言葉を重ねたのは、谷崎だった。
谷崎は芥川との一件の後、与謝野の治療を受け、今日やっと戻ってきたのだ。
敦は谷崎の声を聞くと、嬉しそうに声を上げた。
「谷崎さん、無事でしたか!」
谷崎はその声に応えるように敦に手を振る。
しかし____。
『与謝野先生の治療の賜物だね』
「谷崎、何度解体された?」
谷崎は国木田の言葉を聞くと、顔を青ざめさせ、俯いた。
「………四回」
項垂れる谷崎に、敦以外の全員が同情の目を向ける。
なんのことかわかっていない敦は顔を傾げた。
そしてよほど怖かったのか、谷崎はしゃがみ込み頭を抱え、ガタガタと震えながら敦に向けて言う。
「敦君、探偵社で怪我だけは絶ッ対にしちゃ駄目だよ」
「?」
その様子に、敦は驚愕した。
そして国木田は、背を壁にもたれさせながら言う。
「今回は、マフィア相手と知れた時点で、逃げなかった谷崎が悪い」
『マズいと思ったらすぐ逃げる。危機察知能力だね』
「そうそう。たとえば…………今から10秒後」
国木田の言葉に続いたAと乱歩。
乱歩はそういうと、懐中時計を取り出した。
「?」
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ark(プロフ) - あきあきさん» ありがとうございます!そう言って貰えて嬉しいです!!これからもよろしくお願いします! (2021年2月28日 5時) (レス) id: 875b3ab9f7 (このIDを非表示/違反報告)
あきあき - 最初から読ましていただきました!すっごく面白いです!原作+夢主のかけあいとかが好きです!頑張ってください! (2021年2月28日 4時) (レス) id: 2068c5b889 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ark | 作成日時:2021年1月17日 22時