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十一話 人生万事塞翁が虎 ページ12

敦の叫びに、太宰がパタンと本を閉じる。


太宰は冷静に敦に話しかけた。




「そもそも変なんだよ、敦君。
経営が傾いたからって、養護施設が児童を追放するかい?大昔の農村じゃないんだ」

『それに、そもそも経営が傾いたなら、一人二人追放したところでどうにもならないの。半分くらい減らして、他所の施設に移すのが筋なんだよ』


「太宰さん、Aちゃんも、何を、云って___」




太宰から引き継いで説明するA。

敦は二人の突然の言葉に驚いた。



しかし二人を振り返る途中、敦は何かに導かれるように、天井付近にある窓から月を見つめ始めた。


それに構わず、太宰は続ける。




「君が街に来たのが二週間前、虎が街に現れたのも二週間前。
君が鶴見川べりにいたのが四日前、同じ場所で虎が目撃されたのも四日前」




その時、敦の心臓がドクンと音を立てた。

やがて、敦の体が徐々に虎へと変化していく。


二人はそれを見つめながら、さらに言葉を続けた。




「国木田君が云っていただろう。【武装探偵社】は異能の力を持つ輩の寄り合いだと。
巷間には知られていないが、この世には異能の者が少なからずいる」


『そしてその力で成功するものもいれば_____
力を制御出来ずに身を滅ぼす者もいるの』


「大方、施設の人は虎の正体を知っていたが、君には教えなかったのだろう。君だけが解っていなかったのだよ。
君も【異能の者】だ。
現身に飢獣を降ろす、月下の能力者___」




暗い闇の中で虎の瞳がギラッと光る。



次の瞬間、白虎となった敦が二人に襲いかかった。

しかし二人は両サイドに分かれ、軽々虎の攻撃を躱す。


倉庫の中にあった物だけがバキバキと破壊されていった。


やがて土埃の中現れた虎は、太宰に向かって飛びかかった。


太宰は呑気にそれを眺めながら躱していく。




「こりゃ凄い力だ。人の首くらい簡単に圧し折れる」


『あ、治くん、次上ね』




虎の標的にならず余裕があるAは、いつもと変わらない明るい口調でそう言う。

太宰はそれに、了解、と答えて指示通り上に飛んだ。


着地後地面を滑り、足が壁にあたる。




「おっと」




そう呟き一度壁を見た太宰の表情は、再度虎に向かう瞬間、真面目なものへと変化した。


太宰を壁まで追い詰めた虎は、タンッと床を蹴る。



虎はついに太宰の正面まで迫った。

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作者名:ark | 作成日時:2021年1月4日 18時

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