アドラブル・バランス 7【K.N】 (ページ9)

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189.サディストページ9

ガタンゴトン。
まあまあな帰宅ラッシュの電車に揺られながら、家路につく。
今朝の事があってなのか、二宮さんは私のすぐ側に居てくれている。
何だかもうそれだけの事なのに私の胸はギュンギュンしっぱなし。

「ていうか、A」

最寄り駅まではまだあと数駅。
そんなタイミングで聞こえてきたのは二宮さんの私を呼ぶ声。

「なんですか？」
「二宮さん呼びはいつになったら直んの？」
「...あ...」

そういえば、そうだった。
「二宮さんって呼ぶな」って言われたあの日以降、彼の事を名前で呼んだ事はない気がする。

気がするんじゃない。
確実に私は呼んでいない。
「和也くん」だなんて平常心で呼べる筈なんてないし、私には難関すぎる。

「まぁ社内は百歩譲って良いとして、会社出たらもうオレはただの上司じゃない訳でしょ？」
「はい...」
「それなのに未だに名字呼びって、かわいそうじゃない？」
「うう...ごもっともです...」

「あーあ、名前で呼んでくれない二宮さん可哀想だなぁ」ってニヤニヤ笑ってる二宮さんは、やっぱりサディストなのかもしれない。

「ねぇ、呼んでみてよ」
「今ですか...！？」
「それ以外にいつがあんの？」
「な、ないです...けど！電車内だし...」
「え？電車内で名前呼ぶ事ってなんか破廉恥な事だっけ？」

...かもしれない、なんかじゃない。
この人は誰がどう見ても、完全にサディストでしかない。

電車の車掌さんが次に停まる駅名をアナウンスしている。
最寄り駅まではまだまだ遠い。