アドラブル・バランス 7【K.N】 (ページ6)

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186.癖ページ6

悶々とする。
その言葉はまさに今の私の脳内を表したもので、最早それは今の私のために造られた言葉なんじゃないかと疑う程。
...なんて本気で考え込んでいるのが私の現在の状況。

いや、だってあんな事があったのに、ささっと切り替えて「ハイ仕事ー！」なんて出来る訳がない。
少なくとも私には、そんな技量は存在しない。

『俺はAちゃんが好き』

確かに彼は、もっちー君は、私にそう言った。
何の迷いもないように感じられた。

正直に言ってしまえば、何をどうすべきだったのかなんて分からない。
「グハァ...」と変な声を出しながら、自分のデスクに突っ伏す。

どうして、もっちー君はあんなに余裕があってスマートな態度だったんだろう？

・

「俺はAちゃんが好き」

もっちー君は爽やかに笑ってそう言った。
私には何が何だか分からなくて、ただ「え？」としか返せなくて。

「再会したばっかりなのに、困らせるような事言ってごめん」
「......」
「でも俺、今朝Aちゃんの顔を見た瞬間から、我慢出来なくて」
「...我慢？」
「うん...昔封じ込めた筈の想いを伝えないための、我慢」

眉毛を少しだけ困らせたように曲げた彼だったけど、それでも表情としては笑顔だった。

何か言わなければ。
というより、私には恋人が居るんだって伝えないと。
そうやって焦れば焦る程、頭が混乱して何も、本当に何も言い出せなかった。

「...明日」
「え...？」
「明日の夜、駅前の喫茶店で待ってる」

そう言ったもっちー君は、いつの間に用意していたのか、彼自身の携帯電話の番号であろう数字が書き込まれたメモ用紙を私の手に握らせて、私の前から去っていってしまった。

・

「グハァァァ...」

やっぱり変な声が出る。
そりゃあ変な声も出るよね。

「どったの？」
「...智さん...」

実は...
私の後ろから声を掛けてくれた智さんに、そう言いかけて、ちょっと待ったと踏みとどまる。

いつまでも智さんの優しさに甘えて、智さんに助けてもらおうとするこの癖は直さないといけない。
最近そう思い始めた私は思わず口をつぐんだ。

「Aちゃん？何かあった？」
「特に何もないです！仕事しなきゃって思ったら奇声が出ちゃいました！」
「ふふ、そうなの？」
「そうなんです！」

何とか誤魔化せた...気なんてしないけど、今はもうこれが私の限界だ。