アドラブル・バランス 7【K.N】 (ページ29)

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209.震える声ページ29

「あ、Aちゃん？」

着信を受け取り、耳にスマホを当てると、電話の向こう側から聞き慣れた櫻井さんの声が聞こえてきた。

「...はい」
「夜遅くにごめんね？今大丈夫？」

櫻井さんの声を聞く度に、心がジワジワと温かくなっていく。
本当に何でなのかは分からないけど、安心している、というか普段あまり感じないような感情になっていっている。

そんな事を悶々と考えていえ黙っていたせいか、電話の向こう側から「...Aちゃん？」と再び名前を呼ばれた。

「あ...すいません、大丈夫ですよ！」
「本当？ごめんね、ちょっと聞きたい事があって」
「何ですか？」
「いや、仕事の事なんだけどね...」

櫻井さんはまだ会社に残って仕事をしていたらしく、明日の会議で使う資料を用意していた私に確認しておきたい事があったとの事だった。

「ごめんね！本当に助かった！」
「いえいえ。お仕事お疲れ様です」
「はは、ありがとう」

そう言った櫻井さんは間髪を入れずに「それはそうとして」なんて言ったから、まだ何かあるのかな？なんてボヤボヤと考える。

「...本当は今、大丈夫なんかじゃないよね...？」

ゆっくり自宅に向かって歩いていた足がピタリと止まった。

「...全然大丈夫ですよ？」
「嘘はダメだよ。声震えてる」
「......」
「何かあった？」

心配そうに聞いてくれる櫻井さん。
心がジワジワ温かくなった理由はそれと関係してるのかな。

でも、それはそれ、これはこれ。
周りの人を巻き込むことだけはもう、したくない。

「何にもないですよ？ちょっと電波が悪い所に居るから、震えて聞こえるかもしれないですけど！」

私はもう意地を張るしかない。

「...そっか。電波が相当悪いんだね、声も震えて聞こえるし、水っぽい音も聞こえる」
「はい。電波が悪くて、櫻井さんの声が聞きづらい気がします」

私の目から頬に向かって、また涙は流れ始めた。