アドラブル・バランス 7【K.N】 (ページ22)

今日:9 hit、昨日:1 hit、合計:127,832 hit

202.知られたくない過去ページ22

100人居れば、100人ともがこう答えるだろう。

「過去に囚われている」

そんな事はもう分かりきっている。
誰よりも私が一番分かっている事なのだから。

...でも、どうしても。
「過去の事だから」と投げ出すような真似だけはしたくない。
あの頃の私の全てだったあの人との約束を放り投げるなんて、私には出来る訳がなかった。

それから。
先生との約束を守りたい、それは勿論の事だけど。
...和也くんには知られたくない過去。
それがネックになっているのも事実だ。

もしも自分の恋人が、過去に担任教師と、一度きりとは言え、誰にも言えないような関係になっていたら。
一度きりとは言え、キスをしてしまったような関係になっていたとしたら。

そう考えると、やっぱり知られたくなかった。
引かれてしまう事は間違いないし、これは私の自分勝手だけど、嫌な顔をされるかもしれないって思うと耐えきれなかった。

「...望月くん」

何だかもう、ついさっきまでのようにフランクに「もっちー君」なんて言えない私は、そう呼んだ。
すると彼は、ほんの一瞬眉間に皺を寄せて、次の瞬間にはもう笑っていた。

「なに？」
「...真剣に考えたいの。だから、一日だけ時間を...」
「無理だよ」
「...え？」

今度は一切笑みは見せずに。

物凄く険悪な表情をして言った。

「八年間も待ってたっていうのに、まだ待たせる気？」

テーブルの上に置かれていた望月くんの右手はギリリと強く握って細かく震えていた。