アドラブル・バランス 7【K.N】 (ページ20)

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200.貴方との約束ページ20

『...俺、来月結婚するんだ』

頭の中でそれだけが何度も何度もリフレインする。

一瞬でも、期待してしまった私は馬鹿だった。
一瞬でも、篠田先生と両想いだと舞い上がった私は馬鹿だった。

一瞬でも。

一瞬でも、篠田先生とお付き合いが出来るかもしれないと自惚れた私は馬鹿だった。

...そんな事、ある訳ないのに。
『生徒である以上』とかそんな問題じゃなかったんだ。

ポタポタ...と止まらない涙は私の頬を伝う。
先生が私の涙を拭ってくれる事はなかった。

...だけど。

「...高本。許して欲しい」

そう言った篠田先生は、静かに私に短いキスをした。
触れるだけの、切ない程に短いキス。

「...先生、最後に一つだけ...質問してもいいですか...？」
「...うん、どうぞ」

先生、ごめんなさい。
私はこれから、貴方にとって嫌な質問をします。

「もし私が先生の生徒じゃなかったら...私を選んでくれていましたか...？」

案の定、篠田先生は少しだけ顔を歪ませた。
でも、口角を少し上げて答えてくれた。

「...そうだね。俺は迷わず君を選んでたよ」

嗚呼、どうして私は篠田先生と対等になれるように生まれてくれなかったんだろう。

・

私の中に存在するあの頃の記憶は、あまりにも鮮明すぎて、私には抱えきれない程のものだった。

「ねぇ、Aちゃん」
「......」
「あのとき篠田先生とした約束、覚えてるでしょ？」

もっちー君の言う「あのとき」とは、言わずもがなあの日の出来事であって、それは彼も見聞きしてしまった事だから、今ここで隠したってそんなのは無駄足。

私の中でまた、あの日の篠田先生が蘇る。

──『今日あった事は誰にも言っちゃいけない』──

──『未来の恋人なんて、以ての外だよ』──

...篠田先生。

──『この出来事もお互いの気持ちも全部、誰にも内緒にするんだ』──

私はやっぱり、貴方の事を忘れる事なんて出来ていなくて。

──『...先生と約束、出来るよな？』──

今でもなお。

いつもいつも思い出しては、胸の奥が苦しくなっています。