アドラブル・バランス 7【K.N】 (ページ17)

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197.この世界そのものページ17

篠田先生は、優しい人だった。

ほぼ毎日数学教官室に押しかけて相談を持ちかける私に対して、先生は嫌な顔一つせず、真剣に聞いてくれて、たまに笑われながら接してくれた。
本当は嫌だったのかもしれないけど、私には一切それは伝わってこなかった。

そして篠田先生は、いつもこう言ってくれていた。

「高本、お前は可愛い奴だな？」

初めてその言葉を言われたとき、呆然と固まってしまった私だけど「変な意味じゃねぇぞ？」ってケラケラ笑う先生を見て、あぁこの人はこんな事言えちゃうんだ...って衝撃を受けたのを今でも覚えている。

何でかは知らないけど、どんな話題を持ちかけたとしても、最後は結局この言葉で締め括られるのがオチだった。
私にとっては世界で一番幸せなオチではあったけれど。

あの頃の私にとって、篠田先生は私の世界そのものだった。

冗談抜きで、篠田先生がこの世界に存在しているから、私もこの世界で何とか存在している。

本当にそう考えて、最早それ以外の別のものなんて浮かびはしなかった。

そんな事を真剣に考えていた高校二年生。
その年の冬の事だった。

いつも通り、放課後に数学教官室に向かった私は篠田先生に相談を持ちかけた。

「先生、今回も数学のテスト学年十位以内に入っちゃった！」
「うん、俺採点したから知ってる」

クスクス笑いながらそう言われる。
そうやってちょっと馬鹿にされるってだけでも私の心はグラグラ揺れる。