アドラブル・バランス 7【K.N】 (ページ16)

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196.八年前ページ16

ちょうど今から八年前。
私がまだ高校二年生だった、あの頃。

私は人生で初めての恋に落ちていた。
『初恋』という言葉にすら擽ったさを感じていた。

── 篠田斗真先生

それが私の初恋の人の名前と、肩書き。
篠田先生は、当時の私のクラスの担任だった。

無論、友達が少ない以前に、このイレギュラーな初恋を誰かに相談するなんて事は出来る筈もなく。
私はずっと、心の中に想いを留めるばかりだった。

だけど私は曲がりなりにも人間で。
欲というものは少なからず人並みにあったから、行動には移した。
とは言え、告白なんて大胆な事はせず、とにかく先生の視界に入ろうと頑張っていた。

勉強の事や進路の事なんかを、先生が放課後に必ず居る数学教官室まで押しかけて、下校時間まで相談したり。
先生が困っていたら何でもした。
ある日は、クラスの学級委員に立候補者が居なくて、先生が困った素振りを見せた瞬間に私が手を挙げて立候補してみたり。
またある日は、先生が廊下で運び歩いていた荷物を取って手伝ってみたり。

今考えるとそれも十分大胆な行動だったかもしれなかったけど、あの頃の何も知らない私は毎日必死だった。
それだけは確かだ。

実際、篠田先生はうちの学校では人気の先生だった。
格好良いし、教え方は上手だし、ノリも良い。
そんな三拍子が揃った先生を生徒が放っておく訳もなく。
先生の周りには、いつも男女関係なく、たくさんの生徒が居た。

だからこそ、だったのかもしれない。
私が必死になって篠田先生の視界に入ろうとしていたのは。