アドラブル・バランス 7【K.N】 (ページ15)

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195.記憶ページ15

訳が分からなかった。

どうしてそんなに楽しそうにしているのか。
そして何より、どうしてその事を知っているのか。

「ハハッ、大丈夫？固まってるよ？」

ニコニコと笑っているもっちー君とは裏腹に、私は息が苦しくなるくらい余裕なんてものはどこにも存在していない。

「...どうして...」
「うん？」
「どうして...その事、知ってるの...？」

あの日のあの約束。
それを知っているのは、私と先生だけの筈なのに。

心臓がバグバク鳴りっぱなしで、動悸は治まろうとしない。

「どうして、って...そうだなぁ...」

そう言って私から目線を逸らして、喫茶店の天井近くに掛かっている時計を見ながら考えるような素振りを見せるもっちー君。

「簡単に言うと、見ちゃったんだよね」
「...見ちゃった...？」
「いや、いちいち言わなくても分かるでしょ？」

ククッて笑うもっちー君は、今までに見た事のないような表情だった。
言い方は悪いけれど、怖いくらい意地の悪い顔をしていた。

「...あの時、もっちー君も居たの...？」
「うん、居たよ。俺も数学教官室に用があってね？」
「...そうなんだ...」
「あの先生も不用心だよね、教官室の扉なんてガラ空きだったよ」
「......」
「悪いけど、会話も丸聞こえだったし、全部見てた」

もっちー君が話す度に、私の中で消えてなくなる事のないあの日の記憶がどんどん鮮明に色づいていくのが分かる。

それと同時に、私の頭はさっきまで和也くんで占めていた筈なのに

今ではもう、あの人だけが私の頭を占めていた。

──『......高本、好きだよ』─

「...先生......」

あの頃、私の全てだった、あの人。

記憶が、蘇る。