それぞれのお話

伝えない思いF#6 ページ3

私の好きな人は好きになってはいけない人





｢A｣






彼にそう呼ばれる度胸の奥が締め付けられる







『翔さん...』








誰もいない部屋で座っている彼







｢Aか。あかんな、こんな成績じゃ｣









そう呟く彼に私はどうすることも出来ない






『翔さん、ロッカー行きましょ。ね？』







そう言うと立ち上がった






後ろから着いてくる気配を感じながら部屋を出ようとドアノブに手をかけた








その時後ろから抱きしめられた








『し、翔さん？』









｢このまま、少しこのままでいてほしい｣








耳元で喋るからくすぐったくて声が出てしまう








｢A｣









くるっと向きを変えられそのまま荒い口付け









『んっ、しょ、うさん、ふぁ、んっ』







こんなことダメだと思っても拒むことが出来ない









｢A、A｣








翔さんには奥さんや子どもだっているのに







ゆっくりと離された唇








もっと触れて欲しかった








｢すまん。｣








そう言って大きな手で私の唇をなぞる








それでさえぞくぞくしてしまう






『行きましょ』






何事も無かったかのように部屋を出てロッカーへ戻る







ロッカーに帰れば拳士さんを叩くいつもの彼に戻った





それでいい





私は彼に思いを伝えることはこの先一生ないだろう

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