教えて、先生。 (ページ28)

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「しっ。Aさんの頭に響くでしょ」

「あ…すまん」

途端に囁くような声にボリュームを落とすヒチョル先生。
何もそこまで小声じゃなくても…

「具合はどう？まだぼんやりしてる？」

「…頭は痛いけど、意識は一応しっかりしてます」

横になった今も、頭はぐわんぐわんと揺れてるような気がしていた。
初めてだ。こんなに酷いのは。

「倒れた時のこと覚えてる？」

「…突然だったんです、本当に。いきなり、意識がふわって」

「頭痛とかはなくて、気がついたら倒れてたんだね」

「はい」

冷静にイェソン先生がペンを走らせる横で、心配そうにこっちを見ているヒチョル先生。
子供かっ。

「…ヒチョル先生、そんなに心配しなくても大丈夫ですよ、たぶん」

「たぶんってお前…」

呆れたように顔をしかめるヒチョル先生。すると、イェソン先生がおもむろに顔を上げた。

「しばらく体調は良かったんだよね？」

「はい、本当に何もなくって。もう治ったのかななんて考えていました」

「そっか。…」

ぽつりとそう言って、腕組みをして考え込む先生。
ふとした動作が格好いい。

「先生？」

「…反動、みたいなものなのかな。俺も前例がないから分からないけど。Aさんみたいなタイプは初めてだから…。
きっと、今までなかった分の頭痛だとか眩暈が、一気に襲ってきたんだと思う」

「…反動…」

はああ、と無意識に深いため息が出ていた。
やっと。やっと治った。
もう苦しい思いをしなくて済む。
いちいち体のことを気にしないでいられる。
解放されたんだ。
そう思っていた矢先のことで。
言葉に表せない複雑な気持ちに、自分でもどうしたらいいのか分からなかった。
ただ、呆然とするしかなかった。

「…A」

少し苦しそうな顔をしたヒチョル先生が、私に手を伸ばす。

「ヒチョル先生」

と、鋭い声がそれを遮った。
…イェソン先生…？
彼は、綺麗な手首を掴んで、ヒチョル先生を制していた。

「…イェソン？」

「先生、ここは俺に任せて、戻ってください。大丈夫ですから」

そう言われたとたん、ヒチョル先生の表情がすうっと冷たくなった。
こんな先生の表情を見るのは初めてで、驚きを隠せなかった。

「……分かった」

少し間を置いて、先生は立ち上がる。そして部屋を後にした。