教えて、先生。 (ページ19)

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何事もなくつらつらと時間が過ぎて、気付けば放課後。
わくわくしながら、多目的室Dへと足を運…ぼうとしたんだけど。

｢…ここ、どこ？｣

ただでさえ方向音痴な私は、今まで使ったことのない多目的室Dへの道を覚えていなかった。
まさかこんなところで躓くなんて、と自分の空間理解力の無さを呪った。

｢もう、無理矢理にでもエリに付いてきてもらえば良かった…｣

途方に暮れていると、ふと静まり返った廊下に、音楽が響いてきた。
ノリがよくて、聴いていると思わず体が動いてしまうような。

｢…もしかしてダンス部？｣

それだけを頼りに、廊下を進む。
どんどん音が近付いてきて、しばらく歩くと｢多目的室D｣のプレートが見えた。

｢助かった…｣

涙目で教室に駆け寄る。
音楽が聴こえるということは、もう既に練習しているのだろうか。
少し入るのを躊躇っていると、私に影が落とされた。

え？

｢ちょっと退けてくれない？｣

｢ぎゃああ!!｣

耳元で低音が響いて思わずのけぞる。
慌てて振り返ると、男の子が私に覆いかぶさっていた。
彼は壁に手をついていて、私が背中を向けていなければ、完全に壁ドンの体勢だ。
薄暗くて顔がよく見えない。
人相が悪くなるのも構わずに、ぎゅっと目を細めて彼を睨む。

ん？なんか見覚えがあるぞ。
この人は…

｢あーー!!｣

思い出した。
彼は、入学式の時に私を教室まで案内してくれた後輩くんだ。
端正な顔立ちと、年下とは思えない大人びた立ち振る舞いが印象的な。
私に指をさされて怪訝そうな顔をしていた彼も、あっと思い出したように目を丸くした。

｢｢あの時の！｣｣

ぽかんとしていると、彼が口を開いた。

｢なんで先輩がここに？ここ、ダンス部の練習教室ですよ｣

｢知ってま…っじゃなくて、知ってるよ。見学しに来たの。｣

どうしても敬語が抜けない。

｢君こそ…って、もしかしてダンス部なの？｣

｢うん。一応先生からの評価の良さは上位の方です。
それならもしかして、イーシン先輩の妹さんって…｣

｢あー、やっぱり君も聞いてたか…｣

これほど恥ずかしいことはない。
お兄ちゃん、勘弁してよ～…

｢先輩、ダンス部へようこそ！じっくり見てってください！｣

｢うん、ありがとう！ところで、名前、なんていうの？｣

私の問いかけに対して、彼は初めて無邪気な笑顔を見せた。

｢ダンス部のエース、ダンスマシーンことカイです！｣