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「……綺麗な海」
彼を探し始めて、もうすぐ1年が経とうとした。
ここはリストにある10個目の国だ。各国の隣にかつて彼が拠点を置いていた街の名前が書いてある。赤井から教えて貰った。
治安は最悪だが景色は悪くない。特に海水浴客のいない海辺は素晴らしく眺めが良かった。
砂浜に腰を下ろし、体育座りで真っ青な海を暫く見つめる。透き通った海水は彼の瞳を連想させた。
「……」
腕の中に顔を埋めた。日が昇ったばかりの早朝にこんな町外れの海辺に来る人間はいない。背後を心配する必要もないだろう。
ーーこんなに探しているのに、彼の面影はおろか手がかりすら一欠片も見当たらない。
(………本当に、死んだのかもしれない)
赤井から聞いた話によれば降谷は急所ではなく、足を撃たれたそうだ。歩けなくなった降谷は赤井にある”頼み事”をして、それから『自分を置いていけ』と吐き捨てた。
…狙撃銃を持っていた赤井が男一人を背負って引き返すのは無理だ。止むを得ずそのまま進んだらしい。
だから、本当に彼はその後爆発に巻き込まれた可能性だってあるのだ。
「最低……ばか降谷、っ」
いくら下唇を噛み締めても流れ落ちる涙は止まらなかった。嘘ばかりを口にするあの男が、憎くて仕方ない。
羽織っていたジャケットを握りしめて向ける相手もいない悪言を呟いた。降谷があの日唯一残していった遺品だ。
…そう思いたくはないが。
「ーーーーーー…」
ーー僅かな呼吸音が近くで聞こえる。近くといっても5m位先だろう。こんな朝早くに海を訪れる物好きなんていたのか。
震えた嗚咽も聞こえていた筈だ。見知らぬ誰かに泣き顔なんて見せたくない。
あちこちについた砂を払い、大きいジャケットで身を隠すよう立ち上がる。そのまま立ち去ろうと方向転換すれば呼吸音の主がようやく視界に入った。
「……」
嗚咽も、涙も、全部引っ込んだ。
馬鹿みたいに息が上手く吸えなくて喉が詰まる。潮風がその人の髪を揺らし、幻覚でも幻影でもないのだと分からせた。
「……A」
こんな私を目一杯愛してくれた。もう二度と会えないはずだった。何度も何度も忘れようと必死に泣きじゃくって、結局忘れることなんて出来なかった。
私の『光』が、ーーーーー…お姉ちゃんの声が
波の音に紛れて聞こえた。
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モミジ(プロフ) - この作品、最高です!この作品を読んで感動して泣きました。新作も読んで見ます!これからも応援しています! (2019年5月5日 16時) (レス) id: d4cb7d7d86 (このIDを非表示/違反報告)
ringo6349(プロフ) - こんばんは!完結おめでとうございます!ずっと私の中で物語を完結させたくなくて読めなかったのですが読めてよかったです。今回もとても素敵で好きなお話でした。本当にてなさんの書かれる物語が大好きです!忙しいので時間はかかるかもしれませんが新作も絶対読みます (2019年4月26日 22時) (レス) id: 66d3f8785b (このIDを非表示/違反報告)
てな(プロフ) - 華さん» 嬉しい限りでございます…複雑な心境を書くのがすごく難しかったです。コメントありがとうございますー!! (2019年3月29日 14時) (レス) id: 46f0755694 (このIDを非表示/違反報告)
華(プロフ) - すごいです…。私、占ツクの小説で泣いたの、初めてです。夢主の悲しみとか嫉妬心とかが分かりやすくて、一気に読んでしまいました。完結おめでとうございます!! (2019年3月28日 21時) (レス) id: 1c08efcab1 (このIDを非表示/違反報告)
てな(プロフ) - 蓮-Ren-さん» ありがとうございます!そう言っていただけると凄く嬉しいです…(´∇`) (2019年3月27日 13時) (レス) id: 46f0755694 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:てな | 作成日時:2019年3月21日 16時