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--ばかな夫-- ページ3

*




「いってらっしゃい」




まだ朝日も昇っていない早朝だというのに
降谷の表情は疲労の気配すら見られない。

いつも通り控えめに手を振って見送りをすると、一向に家を出ようとしない降谷がちょいちょいと手招きをしてきた。




「ど、うかした?」

「忘れ物」




首を傾げる前に二の腕を引っ張られ、硬い胸板に頬がぶつかる。ぽんぽんと頭に手が乗っかって思わず肩に力が入ってしまった。





「いってくる」

「…………いっ、てらっしゃい……」




してやったりな顔で降谷は今度こそ出勤していった。残されたのは「何やってるの?」と言わんばかりのジト目で睨んでくるハロと、





「……………」





なんともいえない羞恥心に襲われ、一人頬を赤くする私だった。


…たとえ敵とはいえ顔が良すぎる。あんな優しい表情で、あんな優しい声で頭を撫でられるのは久しぶりかもしれない。

生意気で可愛げのない私にそんなことをしてくれたのは、お姉ちゃんぐらいだったから。





(まぁ…所詮あの男も本当の私を知らない)




”降谷A”は、優しくて気立てが良くて。聡明でおしとやかな大和撫子。その一方…本当の私はまるで正反対な性格をしている。


自分のことでいっぱいいっぱいで、他の人に優しくできる余裕なんてない。可愛いものよりシンプルなものが好きだし、部屋で本を読むより外で体を動かす方が好きだ。


……そして、平気な顔して夫を騙し
常にその首を狙っている。


こんな私を、誰が愛してくれる?






『ーーーーーー……ひかり…』





彼は姉の恋人だった。もしそれが偽物ではなく、本当の恋人だとしたら。本当に心の底から姉を愛していたのなら。

姉と血が繋がっている私に、姉の面影を求めているのではないだろうか。





「……ばかみたい。ほんとうに」





少しだけ傷ついたなんて、自覚すらしたくなかった。

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モミジ(プロフ) - この作品、最高です!この作品を読んで感動して泣きました。新作も読んで見ます!これからも応援しています! (2019年5月5日 16時) (レス) id: d4cb7d7d86 (このIDを非表示/違反報告)
ringo6349(プロフ) - こんばんは!完結おめでとうございます!ずっと私の中で物語を完結させたくなくて読めなかったのですが読めてよかったです。今回もとても素敵で好きなお話でした。本当にてなさんの書かれる物語が大好きです!忙しいので時間はかかるかもしれませんが新作も絶対読みます (2019年4月26日 22時) (レス) id: 66d3f8785b (このIDを非表示/違反報告)
てな(プロフ) - 華さん» 嬉しい限りでございます…複雑な心境を書くのがすごく難しかったです。コメントありがとうございますー!! (2019年3月29日 14時) (レス) id: 46f0755694 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - すごいです…。私、占ツクの小説で泣いたの、初めてです。夢主の悲しみとか嫉妬心とかが分かりやすくて、一気に読んでしまいました。完結おめでとうございます!! (2019年3月28日 21時) (レス) id: 1c08efcab1 (このIDを非表示/違反報告)
てな(プロフ) - 蓮-Ren-さん» ありがとうございます!そう言っていただけると凄く嬉しいです…(´∇`) (2019年3月27日 13時) (レス) id: 46f0755694 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:てな | 作成日時:2019年3月21日 16時

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