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Furuya side
赤井の口からぽつりぽつりと紡がれていくアイツの
過去は、想像を絶するほどに苦痛なものだった。
頼れる人間は一人もいなかったという。
「……どうして、お前はアイツから離れた」
不思議で仕方がなかった。彼女との馴れ初めを
話す赤井の瞳は柔く細められて、きっと今でさえも
彼女のことを大切に想っているのだろう。
想像以上に低い声が出てしまって自分でも驚いた。
「……、…」
「一番苦しかった時にお前がいなくなって、これから
どうすればいいのか分からなくなったんだろう」
だから彼女は五億円という大金を
なんとしてでも稼ごうとして
怪盗や義賊にまで成り下がったのだ。
赤井が傍にいてやれば、もっと早くに
彼女を止められていたのかもしれない。
「…俺は、彼女を守れるほど立派な人間ではない」
いつになく弱々しい呟きに苛立って
その胸ぐらを掴み上げれば、
翡翠の瞳がゆっくりと僕を捉えた。
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「もしかして、宮野明美への免罪のつもりか?」
赤井秀一が守れなかった、宮野志保の姉。
半分図星で半分違うといったところか
「それもないとは言えんが…」と赤井が口を開く。
「明美を組織に置き去りにして
のこのこと逃げてきた俺が…
彼女の傍にいてやれる資格はないだろう」
資格がない。そんなのはただの言い訳だ。
本当はあの時一人きりになってしまった彼女を
"大丈夫だ"と支えてやることが正しい選択だった。
「……何寝ぼけたことを」
目を覚ませ赤井秀一。
俯いたままの顔を怒りも隠さず睨み上げると
赤井はどこか面食らった表情を浮かべていた。
「眠っていたアイツが僕の胸に擦り寄って
幸せそうに頬を緩ませていた」
「お前ならこの意味が分かるだろう…?」
「彼女はずっと、お前を求めていたんだ」
力無さげに伏せられた瞳がやっと見開かれて、
少しばかり痛む自分の心には気付かないフリをした。
佐々木Aを守るべき人間は、赤井秀一なのだ。
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てな(プロフ) - 華花。さん» 嬉しみ深いお言葉感謝です…!!ふりゃさんの複雑な心境をなんとか表現していきたいです(願望) (2019年2月15日 22時) (レス) id: 46f0755694 (このIDを非表示/違反報告)
てな(プロフ) - 御影さん» ああありがとうございます…ようやく旅行から帰れたので更新進めて行きたいと思っております! (2019年2月15日 22時) (レス) id: 46f0755694 (このIDを非表示/違反報告)
華花。(プロフ) - てなさんの作品大好きすぎてもうてなさん無しでは生きられない体になってしまってます(キモい)これから2人がどうなっていくのか…楽しみにしています! (2019年2月11日 23時) (レス) id: 2bd2296ed7 (このIDを非表示/違反報告)
御影(プロフ) - な、泣ける……。゜(´∩ω∩`)゜。先が気になるがとりあえず今日は寝ます。 (2019年2月10日 22時) (レス) id: 0f64e64eef (このIDを非表示/違反報告)
てな(プロフ) - シャラさん» コメント誠にありがとうございます!過去の作品まで見てもらえて感謝感激でこざいます…(*゚▽゚)かっこよい零くんを書くのが至福です!更新まったり頑張らせていただきます!! (2019年2月4日 0時) (レス) id: 46f0755694 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:てな | 作成日時:2019年2月1日 22時