小さな名探偵にヒントをあげる彼女 ページ9
…
「ご利用ありがとうございました。
是非また頼ってみてください」
では、とお礼を述べた女性に一礼して外に出る。
日が暮れてきた空の下で
スマートフォンを取り出した。
「……米花町の、音楽スタジオ?」
たった今、初めての…といっても
"今日の私"にとっての
初めての仕事を終えたばかりであった。
殺人事件の犯人探しを手伝って欲しい
とのことだったが、犯人がご丁寧に
分かりやすい証拠を残してくれていたお陰で
1時間程度で終わった。
……そして現在開いている通知欄に表示された
有希子さんから届いたメールへと飛ぶ。
(殺人事件…依頼主は女子高校生)
音楽スタジオで殺人事件が起こった…とのこと。
詳しい情報は現場で、か。
(うーん…もしかしてあそこに見える奴かしら)
自分が今さっき解決した現場を後にして
数歩歩いたところで、依頼内容に表示されている
現場名のスタジオと思われしき看板が見えてきた。
助かる。
......................................................
Conan side
「ねえねえお姉さん」
「ん?」
くん、と彼女のスカートを引っ張り
しゃがみこませるようさりげなく促す。
スカート生地のふわりとした感触に
(いくらすんだよコレ)と思わず顔を顰めてしまった。
「記憶がリセットされるって…」
「ああ、だからさっきも言ったでしょ?」
言葉の通りよ、と彼女が置いてあった
ドラムスティックを手に取り
何かを考えるよう顎に手をやる。
扱いづらい人だな、と一人彼女を見ていると
「不思議ね」と彼女が唐突に呟いた。
「え?」
「人間は記憶喪失の類の症状に侵されたとしても、
言葉の話し方や歩き方や泳ぎ方…そして
編み物の仕方等は覚えている」
「……お姉さん?」
「………どうしてかしら、さっぱりだわ」
そう言ってドラムスティックを俺の手に渡した
彼女は、現場に足を踏み入れた安室さんと
丁度入れ違いになるよう部屋を出ていった。
(編み物?………)
わざとその言葉だけを仲間外れのように
言ったのは、一体なぜなのだろうか。
「………」
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作者名:てな | 作成日時:2018年8月12日 17時