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寝不足の店員と彼女 ページ8




「ーーーいらっしゃいませ!」


ドアを開けると可愛らしい鈴の音が鳴り響く。

看板娘らしき女性が微笑みながら
カウンター席へと案内してくれた。



(店員との絡みはなし…。
そこまで常連でもないのかしら)



ふむ、と取り敢えず有希子さんが言っていた
私が気に入ったというアップルティーを頼もうと
近くにいた店員に「すみません」と呼びかけた。



「アップルティーをください」

「っ、…かしこまりました。少々お待ちください」



は、と何かに気づいた…というか
浮上しかけていた意識を取り戻したかのような
彼の仕草に少し首を傾げたものの、

彼はカウンターの向こうへと早々に移動していた。


クローゼットにあった鞄には
何千円か入ってる財布と一冊の推理小説、
そして自身の名刺が数枚入っていた。

そのまま持ってきた推理小説を取り出して
栞が挟んである部分を開くも、
当然話の展開は分からない。最初から読み直す。




(………寝てないのかしら)




ちら、と本を読むふりをして目の前で
紅茶を淹れているさっきの店員を盗み見る。
勿論なるべくバレないように。


揺れる蜂蜜色の髪は傷んでいるように見えるし、
目下は薄らとコンシーラーが塗られている。


そこまでブラックな喫茶店には見えない。
なら複数のバイトを掛け持っているのだろうか、



「お待たせ致しました。アップルティーです」

「ありがとうございます」



にっこりと微笑んだ彼の顔を一瞬だけ
正面から見て、再び本に目線を落とした。

ほんの一瞬だったが
少しだけガムの匂いがした気がする。



(しかも甘くない奴ね、高速道路の
サービスエリアで売ってる奴かしら…)



運転中居眠り防止のために販売されてる
強烈な辛さのガム、あの匂いを僅かに感じたのだ。

睡眠不足の人間は何かを噛む習性がある。
例えば飴だったりガムだったりと。

それにあの種類のガムということは
ほぼほぼ当たりだろう。



(……まあ、関係ないか)



所詮記憶を眠れば失ってしまう私には
全く関係の無い話なのだ。
この店員が寝不足だろうがなんだろうが。



「……通知」



何やら「バンドやろ!」「梓さんギターね」的な
会話をし始めた女子高生達を背に
アップルティーを飲み干して会計を済ませた。

そして通知欄をタップし
有希子さんからのメッセージを黙読する。



「……美味しかったな」



たしかにアップルティーは
私の好みどストライクの味だった。

また是非行ってみたいものだ。是非。

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作者名:てな | 作成日時:2018年8月12日 17時

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