いつものように呟いた彼女 ページ43
…
「………A、さん?」
「いえ気にしないでください」
なんてこった。
(こんな、胡散臭い、男が!?)
彼に向けられた笑顔はやる気のない店員がする
だらしのないモノとはまた違う、けれど
私には意図的にパーツを動かせて作った
"偽物の笑顔"にしか見えない。
(こんな男が気になるの?
……昨日の私の目が腐ってたのかしら)
「風邪の具合はどうですか?」
「え」
「……あ、昨日Aさんが高熱で
突然倒れてしまって、僕が自宅まで運んだんです」
「自宅まで」
「はい」
どうやら昨日の私は高熱で倒れた所を
この男に自宅まで送り届けてもらった挙句、
手厚い看病までされたそうだ。
(高熱で意識が朦朧としてたのかな……)
状況を整理するに、
私はきっと熱で弱っているところを
彼にあれこれ世話をされ、優しくされ…
うっかりと流れに乗り絆されてしまったのだ。
特に風邪を引いた人間は心細くなりがちで
普段胡散臭いというイメージが
べったりと貼り付いた男を、親切な男性と
錯覚した可能性が非常に高い。
「どうしたんですか?百面相して」
「………名前呼びなんて馴れ馴れしいです」
「今日の貴方はつれないですね、
昨日はあんなにお話してくれたのに」
「……昨日の私に心底同情します」
なんなんだ、胡散臭さが増している。
「お待たせしました、アップルティーです」
「…」
帰ったら速攻で太腿の戯言を消そう。
相も変わらず営業スマイルで
アップルティーを目の前に置いた
安室さんを、上目でじろりと見る。
すると彼は「今日のAさんは
ドライですねぇ」と顎に手をやった。
(……一体この人の何が私の心を動かしたのやら)
「………おいしいですか?」
程良い温度で出てきたアップルティーは
私がすぐに飲めるための配慮か、
安室さんはアップルティーを
一口含んだ私を見てそう呟く。
.
「……おいしいです」
「それはよかった」
その言葉を口にした彼の笑みは、
何故だか偽物なんてモノとは到底思えないほどに
スカイブルーの瞳が柔らかに綻んでいた。
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作者名:てな | 作成日時:2018年8月12日 17時