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なかったことにされていない言葉と彼女 ページ37



you side



「……僕は少しだけ、貴方が羨ましいですよ」

「………え?」



それは、哀れみでも
単なる興味本位の言葉でもないように聞こえた。

そして彼は本当にそう思っているかのような表情を
見せると、キッチンへ向かっていく。

かちゃかちゃと何かを用意していく彼は
くたびれた服を纏いつつも、
背筋はしゃんと伸びていた。




「僕は貴方の推理ショーに立会いましたが…
まず僕と貴方の推理の目線が違ったんです」

「……はあ」

「それは恐らく毎日のように
生まれ変わる貴方だからこそ、昨日を覚えている
僕らとは違う目であの謎を解けたんだと思います」




ティーカップ片手に戻ってきた安室さんは
「更に、」と人のいい笑顔を浮かべながら
柔らかく目を細めた。





「日によって貴方は変わってしまうなんてこと。
僕ならそれがはっきり違うと断言できます。それは
僕が貴方と交わした言葉を覚えているから」


「……」


「そうですねぇ…例えばですが、
喫茶店で僕が淹れるこのアップルティー。

貴方はきまってこれを飲むと
「おいしいです」って微笑んでくれます」




はい、と渡してきたカップを受け取っても
彼は喋り続け倒してくる。




「貴方は優しい人だ。……人が死んだというのに
スクープ欲しさに騒ぐ雑誌記者に顔を顰めたり

ハーフの僕に世界共通人間は
赤い血が流れている…そう仰ってくれました」


「優しい、…」


「あとは…前の事件で、自害するなら
自分は目立たない所でひっそりと死にたいと
少々疲れた顔で僕に言ってましたよ」


「……よく、覚えてらっしゃるんですね」





何処か他人事のようにそれを耳に入れて
得意気に話を続けていく安室さんにそう呟く。

すると彼は少しだけ笑って
照れくさそうに頬をかいた。





「貴方とした会話、結構面白かったので」






.






(……私とした、会話)







「………おいしいです」

「それはよかった」




程よい温度のアップルティーを口に含めば、
自然と頬が緩んでしまった。

喋りまくっても嫌がらない彼女→←昨日の私は誰なのかを覚えられない彼女



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作者名:てな | 作成日時:2018年8月12日 17時

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