謎の女性と寒がりな彼女 ページ23
…
you side
「………」
白い天井、ふわふわと弾むシーツに
薄いカーテンが取り付けられた大きなベッド。
加えて自身の服装は可愛らしいルームウェア。
「っ、?……」
『私の名前は九条A。
私の記憶は一日でリセットされる。職業は探偵』
そう私の筆跡で書かれた腕が目に入った。
視界に垂れてきた黒髪は
微かに覚えている記憶上の私より少し長い。
と、書かれた情報を飲み込みながら
部屋の探索をしていれば、急にバターン!と
開いたドアにひくりと肩を揺らした。
「やだ、まだ朝ごはん出来てないのよ〜!
ちょっと待っててAちゃん!」
慌てた様子でパタパタと何処かへ消えていき、
また戻ってはキッチンに大量の食材を置いた
謎の女性は、当然全く見覚えがない。
「あの」
「あ、そうだ…えっとまずはおはよう」
「……おはようございます?」
「私の名前は工藤有希子。いつもは
ロスにいるんだけど〜優作ったら私を放って
仕事仕事…酷いと思わない!?」
「……はあ」
だから遊びに来ちゃった〜ん♡と
きゅるるんと笑いながら手に取っている包丁を
ダムダムと鶏肉に叩きつけている彼女は、
どうやら私の事も
私の記憶のことも知っているようだ。
ならば安心、ともう一度自分の腕を見つめる。
(……腕だけ?足は…)
ばさりと着ていたルームウェアを脱ぎ落とし
置いてあった大きな鏡の前に立つ。
太腿に工藤有希子の名前と電話番号、
起きたら連絡する。と書いてある。
恐らく毎朝彼女から説明でも受けているのだろう。
…他に書き残してあるメッセージはなさそうだ、と
もう一度服を着ようと屈んだところで
「っくしゅ」とくしゃみが出た。
と同時にぶるりと寒気が襲う。
「Aちゃ〜ん、?朝ごはん出来たわよ」
「……今行きます」
…上着を探そう。
どうやら今は少し肌寒い季節のようだ。
並んでいる暖かそうな食卓に目を落としていると
得意気に笑っている有希子さんが
「そんなんじゃ風邪ひいちゃうじゃない!
上着探してきてあげるから待っててね」と
言ってクローゼットの方へ歩いていった。
(……優しい人ではある)
"今日の私"には掴めない性格に見えるのだが。
母親のような立ち位置なのだろうか?
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作者名:てな | 作成日時:2018年8月12日 17時