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「Aこれ使って？」
健人に大きな浮き輪を被せられる
「急ぐぞ」
浮き輪のロープを風磨が前から力強く引っ張る
健人がわたしの後ろから浮き輪に体重を預け
2人して漕ぎ出す
「どこ行くの？」
「すげーとこ連れてってやるよ」
夕日に照らされた風磨の笑った顔が楽しそう
力強い男2人の手にかかれば
わたしを引き連れた浮き輪は
ぐんぐんスピードを上げていった
砂浜から少し離れた岩場に着くと
風磨と健人か先に登る
足場を確認して
「ん」
「ほら」
風磨と健人2人から手を差し出される
わたしは迷うことなく
2人の手を握った
何ひとつ迷うことはなく
差し出された２つの腕に
自分を任せた
17歳のわたしは
自分の感情に素直に生きていた
この頃のわたしはもういない
人は大人になるに連れて
誰でもちょっとずつ
自分に嘘をついて生きていくもの
そうして描いていた未来と
現実の差を埋めて生きている
あの頃にはもう戻れない
差し出した手を
2人の男らしい手がしっかりと掴んで
わたしを岩場へ引き上げてくれた
「綺麗…」
夕焼けの空が目の前で
まるで終わりを知らせるように
色濃く染まっていく
強い日の光に風磨と健人
2人がどんな表情をしていたのかはわからない
3人で肩を並べて
海に沈んでいく夕日を眺めた
とても綺麗だった
そして何だか
泣きたくなったんだ
カメラ忘れてきちゃったな
そんなこと、ふと冷静になって考えたけど
この時間は映画のフィルムの様に
儚く、だけど鮮明に
脳裏に焼き付いて
この先離れることはなかった
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作者名：莉梨 | 作成日時：2018年10月22日 23時
