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落ちた帽子を取り上げようとするAより先に帽子を取る。
『返してっ』
Aがそう言ってかざす手をそのまま掴む。
「…DV、されてたんか、」
『そんな、大袈裟な…』
「なんでやねん、どっからどう見たってそうやろ。」
『…』
「なんでそんなことになってん？」
『…仕事、で疲れてたのかも。
最近、忙しそうやし。』
そう言うAの目はわかりやすく溺れてる。
Aは昔から嘘をつくとわかりやすい。
言葉がタジタジになる。
だから、違う原因があるんやと確信する。
そして俺には１つの思い当たることがあった。
やけど、決して当たって欲しくないと思い違う質問をする。
「いつから？」
『…最近、すばる、と会って、なかった時にさ、いきなり、』
「…ほんまは？」
『…2ヶ月、前』
そう聞いて俺の予感は確信に変わる。
「…ほんまは俺が原因やろ。」
『違っ』
「俺がAの家で作業させてもらえなくなったんはちょうどそれくらいやったやろ。
あん時からお前、ロングスカート履くようなったし。」
そう言うとAは少し黙ってそれから
『もしそうやとしても、すばるには関係ない。
もうこの話はいいよ。
それより、そろそろ帰らな、淳さんが帰って…』
そう言いながら逃げようとするAの腕を掴む。
「行かせるわけないやろ、関係ありまくりやんけ。
俺が原因やったら！…」
そう言いながら顔を上げるとAが泣きそうになっていた。
「ごめん、でもあんな奴の家なんか帰らせるわけないやろ。
日本に一緒に帰ろ。」
Aは、黙って何も動かなくなった。
部屋には静寂が流れる。
『…すばるが…』
小声で何か言ったのが聞き取れなくて聞き直す。
Aは以前、俯いていた。
『すばるが、来なかったら、こんなことにはならなかった
来る前は、幸せに過ごせてた。
…だから、もう、私には関わらんといて。
お願い。
すばるがここ、を離れたら、またあの生活に、戻れるねん。』
そう言われて何も言い返せなくなり力が抜け、自然とAを引き止めていた腕から手が離れる。
Aは、黙って落ちた帽子とカバンを拾い出て行った。
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作者名：kameco | 作成日時：2019年12月15日 0時
