#15. モノクロの世界 ページ16
賑やかに染まる色は、オレンジ色という暖色に染まっている
そう気づいたのは、この会社に務めてからだったと思う。「日常」の意味を知った最初の日から
詩乃)っでさぁ、いつになっても結婚の話すら聞いてくれなくてぇ。…っておーい、Aちゃん?
「っあ、すみません。」
詩乃)どうしたの?池照お兄さんみたいになって。
「いえ、何でもありません。それで、結婚の話を聞いてくれないとかですよね。」
居酒屋に響いていた詩乃さんの声が消えて、賑やかな声が残る
それだけなのに、物凄い孤独な空気と不安が過った
詩乃)もしかして、こういう所苦手だった?
「違っ、そうじゃなくて。…すみません。」
今、詩乃さんと飲みに来ている理由は、詩乃さんからのお誘いだった
あまり人気に触れない私と少しでも距離を縮めてくれようとしてくれた気遣いだ
だからこそ、私が詩乃さんの事を知るべきなのに
詩乃)Aちゃん。やっぱり、何かあった?
「…え?」
詩乃)ほら、私は同じ悩み事しか口にしていないし、裏道お兄さん達だって時には悩み事を話すでしょ?けど私、1度もAちゃんの悩みを聞いたこと無かったし
そんな事まで気づいていたんだ
私は、自分のことばかりに何も見えなかったのに
「悩みなんてありませんよ。だって私、この職業が楽しいですし」
詩乃)嘘。…悩みが無くて、ここに来た訳じゃないんでしょう?
詩乃さんの優しさに溶け込んでしまいそう
言えば楽になるけど、怖い。自分の話を信じてくれる人であるのなら…
いや、そんな事どうだっていい
既に聞いてくれる姿勢でいる詩乃さんに。これからも同じ場所で立つ仲間に
もう隠す必要があるわけない。
目の前に置いてあるジョッキを取り出し、酔うはずも無いのにお酒を飲み干した
こういう時、少しでもお酒に弱かったらと後悔する
賑やかに染まる暖色は、過去の色に塗り替えられる
まるで、モノクロ映像を見ているかのように
日常から離れたあの頃の夢を、語り出した
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作者名:ひな林 | 作成日時:2021年6月5日 8時